OpenAIが科学分野向け新ツール「Prism」を発表
OpenAIは最近、科学者向けの無料AI搭載ワークスペース「Prism」を発表しました。このツールは、研究者が論文の草稿作成、引用文献の生成、ホワイトボードのスケッチからの図表作成、共同執筆者とのリアルタイムでの共同作業を可能にする、LaTeXベースのテキストエディタにGPT-5.2モデルを統合したものです。OpenAIは、Prismが研究者が退屈な書式設定作業に費やす時間を減らし、実際の科学研究により多くの時間を割くのに役立つと構想しています。
OpenAI for ScienceのバイスプレジデントであるKevin Weil氏は、2026年がAIと科学にとって、2025年がAIとソフトウェアエンジニアリングにとってそうであったように重要な年になると述べています。ChatGPTが週に約840万件の「ハードサイエンス」に関するメッセージを受け取っていることは、AIが科学者にとって好奇心から中心的なワークフローへと移行している証拠だと彼は説明しました。
「AIスロップ」の懸念と識者の意見
しかし、Prismの発表は、科学界から「AIスロップ(低品質なAI生成コンテンツ)」が科学雑誌に溢れることへの懸念を即座に引き起こしました。多くの出版社が、学術出版における「AIスロップ」と呼ばれるものに対して警鐘を鳴らしています。
- Yian Yin教授(コーネル大学情報科学):2025年12月にScience誌に発表された研究では、大規模言語モデルを使用して論文を執筆した研究者が、分野によって30〜50パーセント生産性を向上させたものの、これらのAI支援論文は査読での評価が低かったことが示されています。Yin教授は、「さまざまな科学分野にわたる非常に広範なパターンであり、現在のエコシステムにおける大きな変化であり、特にどのような科学を支援し資金提供すべきかを決定する人々にとって、非常に真剣な検討が必要だ」と述べています。
- Lisa Messeri教授(エール大学社会文化人類学):4100万件の論文を分析した別の研究では、AIを使用する科学者がより多くの引用を受け、より多くの論文を出版している一方で、科学的探求の集合的な範囲は狭まっていることが判明しました。Messeri教授は、これらの調査結果は研究コミュニティにとって「大きな警鐘」を鳴らすべきだと述べています。
- H. Holden Thorp編集長(Science誌):Thorp氏は、Science誌がその規模と人的な編集投資によりAIスロップの影響を受けにくいとしながらも、「いかなるシステムも、人間であれ人工であれ、すべてを捕捉することはできない」と警告しています。
- Mandy Hill(ケンブリッジ大学出版・評価機関の学術出版担当マネージングディレクター):Hill氏は、出版エコシステムがひっ迫していることを指摘し、「抜本的な改革」を求め、「あまりにも多くの学術論文が出版されており、これが大きなひっ迫を引き起こしている」と述べ、AIがこの問題を「悪化させる」と警告しています。
AIツールの利点と潜在的なリスク
Prismのようなツールは、専門的で洗練された外観の論文を容易に作成できるため、査読システムに意味のある進歩をもたらさない論文が大量に押し寄せる可能性があります。科学的なテキストを生成する障壁は低下していますが、その研究を評価する能力は追いついていません。
OpenAIは、AIモデルが偽の引用をでっち上げる可能性について問われた際、Weil氏が「これによって、科学者が参照文献の正確性を検証する責任が免除されるわけではない」と認めました。従来の引用管理ソフトウェアとは異なり、AIモデルは存在しないもっともらしいソースを生成する可能性があります。
しかし、AIツールの利点も認識されています。英語を流暢に話せない科学者にとって、AIライティングツールは、質の高い研究の出版を正当に加速させる可能性があります。また、AIモデルが最適化の未解決問題を解決したり、数か月かかった対称性計算を再現したりした例も報告されており、執筆支援を超えた研究活動での貢献も期待されています。
結論:科学知識の加速か、査読システムの逼迫か
OpenAIの目標は、単一のAI生成発見を生み出すことではなく、「もしかしたら起こらなかったかもしれない、あるいはそれほど早くは起こらなかったであろう科学における10,000の進歩」を生み出すことだとWeil氏は説明しています。これは「漸進的で複合的な加速」とされています。
しかし、この加速がより多くの科学的知識を生み出すのか、それとも単により多くの科学論文を生み出すだけなのかは、まだ不明です。AIライティングツールは、論文を科学的価値に関わらず洗練された専門的なものに見せることができ、編集者や査読者がプレゼンテーションの質を評価するために使用する初期の審査を、質の低い研究が通過してしまうのを助ける可能性があります。
OpenAIは、Prismに関する公式声明で、このツールが研究を独立して行うものではなく、人間の科学者が検証の責任を負うことを強調しています。それでも、技術コミュニティに広がる不安は、「AIがバグバウンティに引き起こしているのと同じことを科学雑誌にもたらすのではないか」という懸念に集約されています。「私たちは本当に不足のない社会に住んでいるが、豊富にあるのはゴミであり、それが価値あるものすべてを押し流している」という声も聞かれます。
