NIHトップ、パンデミックへの怒りから「第2の科学革命」を提唱
米国国立衛生研究所(NIH)のジェイ・バタチャリヤ長官が、科学界のあり方を根本的に変革する「第2の科学革命」を提唱し、注目を集めています。しかし、その動機にはCOVID-19パンデミックへの対応に対する深い怒りがあり、非科学的な見解で知られる団体「MAHA Institute」との会合でこのビジョンが語られたことで、議論を呼んでいます。
この会合では、パンデミック期の政策決定に対する不満、医療システムの失敗、科学が国民の信頼を失ったという認識など、NIH幹部とMAHA Instituteの間に多くの共通点が見出されました。バタチャリヤ氏は、自身のメッセージを聴衆に響くよう調整しているようでした。その理由は、MAHAが彼の「第2の科学革命」を支持する数少ない政治的支援層の一つであると彼が見ているためです。
「第2の科学革命」の核心とは?
バタチャリヤ氏が提唱する「第2の科学革命」は、現代科学が抱える根源的な問題に対処しようとするものです。彼は、かつて「高位聖職者」が物理的真実を決定していた時代から、天文学者のような「常識外れの天才たちと一般の人々」に真実を決定する力を移した「第1の科学革命」になぞらえます。
そして、「第2の科学革命」の核心は「再現性の革命」にあると主張します。科学的成功の指標を「論文発表数」から「他の研究者が同じことをしても同じ結果が得られるか」へと移行させることを目指しています。これは単なる個々の研究の再現性にとどまらず、より広範な意味での「再現性」と「再生産性」を重視するものです。例えば、異なる科学者間の意見の相違は、建設的な進歩につながると彼は考えています。
提唱される改革とその矛盾点
バタチャリヤ氏の提案の中には、科学界にとって有益なものも含まれています。具体的には、
- 研究の再現性を高めるための文化変革
- 失敗した仮説や既存技術では解決できない問題など、「負の結果」の発表奨励
- NIHの助成金が抱える「リスク回避的」な傾向の是正
- 若手研究者への支援強化
- NIHが資金提供した研究成果を一般市民がより利用しやすくすること
などが挙げられます。
特に、助成金の制度改革として、従来の5年間の助成金を「2年間で探索的研究を行い、その成功に応じて残りの3年間を助成する」という「2+3構造」への変更が提案されています。これは、リスクの高い探索的研究を奨励することを目的としています。
しかし、この記事は、バタチャリヤ氏の「革命」が、彼の怒りの源であるパンデミック政策決定の問題とは無関係であるという「知的矛盾」を指摘しています。パンデミック期の政策決定は、関連する研究が完了する前に行われた政策判断であり、再現性の問題とは直接関係がないというのです。彼の提唱する改革は有益な側面を持つ一方で、その動機付けとの間に大きな乖離が見られるとされています。
政治的背景と科学界への懸念
バタチャリヤ氏の動きは、パンデミックへの対応に対するバイデン政権下の政策への怒りを背景にしており、ドナルド・トランプ政権およびその支持者層との連携を深めていると見られています。MAHA Instituteは、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健長官の目標を推進するために設立された団体であり、トランプ氏の支持基盤の重要な一部となっています。
しかし、MAHA Instituteはイベルメクチンが癌治療に効くというような非科学的な見解を持っていることも指摘されています。NIH幹部は、こうした非科学的な主張に対しては慎重な姿勢を見せつつも、政治的支援を得るためにMAHAの聴衆に配慮している状況です。これは、科学コミュニティからの支持を損なう可能性があり、科学的な完全性が脅かされる懸念も指摘されています。
さらに、バタチャリヤ氏が「資金はカットされていない」と主張した一方で、バーニー・サンダース上院議員は多くの研究分野で資金カットがあったことを示すデータを発表しています。また、NIHの「DEI(多様性、公平性、包摂性)」関連の研究助成金が削減されたことについても、その動機が「イデオロギー的なもの」であるとバタチャリヤ氏は見なしているものの、法廷闘争ではその評価が正当なものではなかったことが示されています。
結論:科学の未来への影響
バタチャリヤ氏の「第2の科学革命」には、科学の再現性を高め、リスクの高い研究を奨励するといった、それ自体は価値のあるアイデアが含まれています。しかし、その動機がパンデミックへの「怒り」に根ざしており、MAHA Instituteのような非科学的団体との連携が見られることから、科学界からは知的矛盾と政治的影響に対する懸念が表明されています。
彼の試みが、米国における科学研究の方向性をどのように変え、最終的に科学の進歩にどのような影響を与えるのか、今後の動向が注視されます。
