**深海底資源開発、加速する動きと環境への懸念**
太平洋の深さ13,000フィート(約3,962メートル)以下、カナダの企業「The Metals Company」が、海底に存在するマンガン団塊(ポリメタリックノジュール)を採取する試験的な操業を行いました。この操業は、銅、マンガン、コバルト、ニッケルなどの資源を豊富に含むノジュールを、タンクロックのように海底を移動しながら採取するもので、成功を収めました。同社は、6万5千平方キロメートルの広大な海域で商業規模の採掘を行うための承認を得るべく動き出しています。
海底資源開発の現状
The Metals Companyの取り組みは氷山の一角であり、中国、インド、ナウル共和国など、31の企業、政府、国営企業がノジュールの分析や採掘機器の試験を行っています。これらの資源は、数百万年もの間、人々の手の届かない場所で眠っていましたが、気候変動対策に伴うクリーンエネルギーへの移行を背景に、その重要性が高まっています。
国際エネルギー機関(IEA)によると、クリーンエネルギーへの大規模なシフトは、重要鉱物およびレアアース元素の需要を4倍に増大させる可能性があります。資源の確保を巡り、様々な意見が出ています。
陸上資源の限界と深海底開発の議論
米国、The Metals Company、一部の抽出産業研究者らは、重要鉱物を陸上で十分に確保できないと主張しています。そのため、深海底鉱業は、新たな鉱山の開発を抑制しつつ、資源の供給を補う役割を果たす可能性があります。一方で、パラオを中心とする40カ国以上や環境保護団体は、生態系への影響が十分に解明されるまで、深海底鉱業活動の一時停止を求めています。また、陸上資源は十分にあるという意見も存在します。
国際海底機構(ISA)と法的な課題
国際海底機構(ISA)は、公海における鉱業を規制するコードの開発に取り組んでいますが、加盟国間の合意は得られていません。2025年7月の協議では多くの問題が未解決のまま終了し、交渉は再開されました。しかし、規則が整備される前に鉱業が開始される可能性があり、ナウルは鉱業コードの合意前に商業許可を申請できる抜け穴を利用しようとしています。さらに、The Metals Companyは、ISAの権限を無視し、米国からClarion-Clipperton Zoneでの採掘許可を申請しています。米国は、ISAの管轄権を認める国際条約に署名していません。
資源需要の増加とIEAの予測
IEAは、2040年までにリチウムの需要が2024年比で約4.7倍、銅の需要が1.3~2.0倍に増加すると予測しています。特に、リチウムの不足は2035年頃から深刻化する可能性があります。銅についても新たな鉱山の開発が困難な状況であり、供給不足が懸念されています。
資源確保の代替案:リサイクル
リサイクルは、新たな鉱山の開発を抑制する代替案として注目されています。使用済みリチウムイオン電池からの資源回収は、リチウムやニッケルの需要を2050年までにそれぞれ25%、40%削減できる可能性があります。しかし、リサイクル技術の効率化や、世界各地でのリサイクル施設の整備、そしてリサイクルを促進する政策の導入が不可欠です。
深海底鉱業の環境影響と議論
深海底鉱業は、陸上鉱業と比較して環境負荷が低い可能性があると主張する声もありますが、生態系への影響を懸念する声も根強くあります。深海底の生態系は、暗く静かな環境に最適化されており、採掘による騒音や光害、海底堆積物の巻き上げ、重金属の放出などが影響を与える可能性があります。The Metals Companyは、深海底の生態系は比較的早く回復すると主張していますが、反対派は、生態系への影響が長期に及ぶ可能性を指摘しています。
国際海底機構(ISA)は、鉱業規則の策定に向けて作業を進めていますが、科学的なデータが不足しているため、慎重な議論が必要です。深海底資源開発は、気候変動対策と生態系保護という相反する目標のバランスを取る上で、重要な課題となっています。
今後の動向
- 国際海底機構(ISA)による鉱業規則の策定
- The Metals Companyによる米国からの採掘許可申請
- 深海底生態系への影響に関するさらなる科学的調査
深海底資源開発は、地球規模のエネルギー転換において重要な役割を果たす可能性がありますが、同時に、生態系への影響や倫理的な問題も孕んでいます。慎重な議論と国際的な協力が不可欠です。
参考資料:
- 国際エネルギー機関(IEA)
- 国際海底機構(ISA)
- The Metals Company
- Knowable Magazine
元記事: https://arstechnica.com/science/2026/03/mining-the-deep-ocean/
