栄光の時代と「タイムワープ」特許
2000年代、TiVoはその名を動詞として使われるほどに普及し、DVR(デジタルビデオレコーダー)の概念を一般に広めました。ライブTVの一時停止や巻き戻し、視聴中の別番組録画といった画期的な機能は、多くの家庭で当たり前のものとなりました。これらの機能は、後に「タイムワープ」特許(米国特許6,233,389)として知られる同社の知的財産の中核をなしていました。
知的財産保護のための長き戦い
TiVoは、その黄金期の大部分を、この重要な特許の保護に費やしました。2004年のEchoStarに対する訴訟を皮切りに、Motorola、Time Warner Cable、AT&T、Dish Network、Cisco、Verizonといったテレビおよびデジタルビデオ分野の主要企業を相手に、数々の特許侵害訴訟を提起しました。TiVoはこれらの法廷闘争のほとんどで勝利を収め、米国特許庁も2度にわたる再審査で特許の主張を再確認しました。法的な観点からは、TiVoは自社の知的財産権を強力に守り抜いたと言えるでしょう。
市場の変化と戦略的見誤り
しかし、TiVoが法廷で勝利を重ねる一方で、テレビ視聴の風景は劇的に変化していました。2007年にはNetflixがストリーミングサービスを開始し、HuluやRokuも登場。スマートTVの初期モデルも市場に投入され始めました。TiVoは、知的財産権の防衛に注力するあまり、これらの市場の大きな変化への対応が遅れました。ライセンス供与が主な収益源となる中、消費者は高価なTiVoのハードウェアと追加のサブスクリプション料金を支払うよりも、安価で手軽なストリーミングデバイスや、ケーブル会社が提供する「十分な」DVRを選ぶようになりました。
衰退とハードウェア事業からの撤退
2010年代に入ると、コードカッティング(ケーブルテレビの解約)が加速し、放送テレビ録画を主眼とするDVRの価値は急速に低下しました。TiVoのハードウェアは停滞し、2014年には「Goodbye, TiVo」という記事が出るほどでした。同社はNetflixやHuluへの対応を進めるも、常に後手に回る形となりました。最終的にTiVoはRoviに買収され、その後2020年には知的財産ライセンスを専門とするXperiに買収されました。Xperiによる買収発表のプレスリリースでは、革新的なハードウェアやソフトウェアではなく、「業界最大かつ最も多様な知的財産(IP)ライセンスプラットフォーム」が強調されました。そして2019年に発売されたTiVo Edgeを最後に、同社はハードウェア事業から撤退。2025年9月30日には在庫の販売を終了し、今後はスマートTV OSに注力すると発表しましたが、これは市場の変化から15年遅れた動きと見られています。
教訓:イノベーションか、それとも防衛か
TiVoの事例は、知的財産保護の重要性を浮き彫りにする一方で、企業が市場の変化に対応するためのイノベーションを怠った場合に何が起こるかを示す教訓でもあります。法的な「防衛」に過度に注力し、市場のニーズや技術の進化を見誤った結果、かつてのパイオニアはテレビ市場の覇権争いから脱落しました。これは、知的財産戦略と事業戦略のバランスがいかに重要であるかを物語っています。
元記事: https://www.theverge.com/tech/802254/tivo-time-warp-patent-courtoom-battles-lost-tv-war