はじめに
かつてSpaceXのエンジニアたちが開発したArbor Energyの発電所は、当初、植物性廃棄物を燃焼させることで大気中の二酸化炭素を回収する「菜食ロケットエンジン」として注目を集めました。しかし、同社は最近、天然ガスも燃料として利用する「雑食」へと方針を転換し、Lowercarbon CapitalとVoyager Venturesが主導するシリーズAラウンドで5,500万ドルを調達したことを発表しました。
「雑食」への転換とその背景
この方針転換は、データセンターからの電力需要が急増していることを背景に、今年に入ってから行われました。既存の設計はAIサーバーへの電力供給に十分対応可能でしたが、木材や農業廃棄物といったバイオマス燃料の供給源に限界があったため、より広範に利用可能な天然ガスを燃料に加えることになりました。
Arbor Energyは、天然ガスを燃焼させる際にも、酸素燃焼(oxy-combustion)技術を用いてCO2を回収する計画です。この技術は、炭化水素を合成ガスに変換し、純粋な酸素の存在下で燃焼させることで、隔離に必要な準備がほとんど不要なCO2を生成します。同社の広報担当者パトリック・マホニー氏によると、税額控除により、CO2を大気中に排出するよりも貯留する方が安価になるとのことです。同社は、CO2を回収・貯留する計画のない企業には技術を販売しない方針を示しています。
天然ガス利用に伴う環境リスク
しかし、天然ガスの燃焼には、CO2排出以外の気候変動への影響も懸念されます。天然ガスの主成分であるメタンは、20年間で二酸化炭素の84倍もの温暖化効果を持つ強力な温室効果ガスです。そのため、天然ガス供給網におけるわずかな漏洩でも、天然ガス火力発電所の気候変動への影響を大きく増大させる可能性があります。
最近の研究では、漏洩率がわずか0.2%であっても、ガス火力発電所のカーボンフットプリントが石炭火力発電所と同等になる可能性があると指摘されています。米国政府は石油・ガス供給網全体の漏洩率を約1%と推定しており、衛星測定では米国全体で約1.6%の漏洩率が示されています。Arbor Energyは、低漏洩率が認証された天然ガス供給元と協力し、発電する1キロワットあたりの電力の気候変動への影響を100グラム未満に抑えることを目標としています。
今後の展望と目標
Arbor Energyは、ルイジアナ州でバイオマスを燃料とする発電所の建設を進めており、このプロジェクトはStripe、Googleなどが支援する先進市場コミットメントであるFrontierとの4,100万ドルの契約によって一部資金が提供されています。この合意に基づき、Arbor Energyは2030年までに116,000トンの二酸化炭素を除去することを義務付けられています。
