「強化された人類」が人口減少とAIの脅威に立ち向かう?「エンハンスト・ゲームズ」が提起する倫理と社会の安全保障

エンハンスト・ゲームズ:新たな人類強化の幕開け

2026年5月に開催が予定されている「エンハンスト・ゲームズ」は、パフォーマンス向上薬の使用を公認するという、スポーツ界に衝撃を与える新たな競技大会です。ピーター・ティール氏の支援を受け、元オリンピック選手も参加を表明しており、世界記録の更新に大きな期待が寄せられています。

長寿産業とビジネスモデル:スポーツを広告塔に

共同創設者のアロン・ドゥ・スーザ氏は、この大会を単なるスポーツイベントではなく、数兆ドル規模の長寿産業のためのマーケティングエンジンと位置付けています。彼のビジョンは、レッドブルがエクストリームスポーツを製品広告に利用したように、エリートアスリートの活躍を通じてテストステロンや成長ホルモンといった「人間強化製品」を一般に普及させることにあります。これは、従来の医療規制を迂回し、直接消費者にアプローチするテレヘルスサービスとして展開される見込みです。

人口減少問題への「解決策」としての人間強化

ドゥ・スーザ氏は、世界的な出生率の低下と高齢化が引き起こす人口減少と経済的停滞という社会的な安全保障上の課題に対し、人間強化が不可欠な解決策であると主張しています。彼は、移民政策への反発が高まる中で、労働力不足を補い、経済成長を維持するためには、人間がより長く生産的に活動できる「強化」が必要だと訴えています。

AIの台頭と人類の競争:倫理的ジレンマ

さらに、ドゥ・スーザ氏は、AGI(汎用人工知能)の進化が人類の存在意義を脅かす可能性に言及し、「機械との競争」において人間が優位性を保つためには、既存のドーピング規制が足かせとなっていると批判しています。彼の視点では、人間強化はAI時代における人類の「防衛策」であり、進化を加速させる手段なのです。

「アップグレードされた人類」がもたらす社会格差と安全保障

しかし、この「人類強化」のビジョンは、深刻な倫理的、社会的な安全保障上の懸念を提起します。ドゥ・スーザ氏の「強化された人間は普通の人間よりも優れている」という発言は、新たな階級社会の創出を示唆しています。また、強化技術の恩恵が富裕層に集中し、社会全体に不平等が拡大する可能性は、社会の分断を深め、新たな形の安全保障上の脅威となり得ます。技術の「トリクルダウン」効果を期待する声もありますが、初期段階でのアクセス格差は避けられないと見られています。


元記事: https://techcrunch.com/2025/10/24/can-steroids-combat-population-collapse-the-enhanced-games-wants-to-find-out/