資金調達の概要と戦略的背景
顧客エンゲージメントプラットフォームを提供するMoEngageは、既存投資家であるゴールドマン・サックス・オルタナティブズが主導するシリーズFラウンドで、新たに1億ドルの資金を調達しました。このラウンドには、インドのベンチャー企業A91パートナーズが新規投資家として加わっています。今回の調達により、MoEngageの総資金調達額は2億5,000万ドルに達しました。
この資金は、同社のグローバル展開を加速し、プラットフォームへのAI機能のさらなる統合に充てられる予定です。デジタルチャネルを通じた顧客との接点が増加する中、企業は顧客データを活用したパーソナライズされたマーケティングの重要性を認識しており、AI駆動型の意思決定自動化ツールへの需要が高まっています。
AIと顧客データ活用の進化
MoEngageは、マーケティングおよび製品チームがキャンペーンを迅速に立ち上げ、ターゲティング効率を向上させるための「Merlin AI」スイートを提供しています。共同創設者兼CEOのRaviteja Dodda氏は、「B2Cブランドが既存のファーストパーティデータを活用し、顧客とより効果的にエンゲージできるよう支援している」と述べています。
過去2〜3年間で、MoEngageは生成AIと意思決定AIの機能に大規模な投資を行ってきました。Merlin AIスイートには、マーケティングメッセージの作成、キャンペーンのバリエーション生成、関連画像を含む自然言語テキストの生成を支援するAIエージェントが含まれています。また、どの顧客に、どのチャネルで、いつメッセージやオファーを届けるべきかを決定する意思決定AIツールも提供されており、顧客データの高度な分析と活用がその中核をなしています。
グローバルな成長と市場での存在感
創業11年のMoEngageは、最初の7年間をインドと東南アジアに注力した後、過去4年間で北米市場に大きく拡大し、現在では収益の30%以上を占めています。欧州と中東からは約25%、残りの45%はインドと東南アジアからの収益です。ゴールドマン・サックスの継続的な支援は、MoEngageのグローバルな存在感をさらに強化するでしょう。
同社は現在、SoundCloud、McAfee、Kayak、Domino’s、Deutsche Telekom、Travelodgeなど、世界中の1,350以上の消費者ブランドにサービスを提供しています。また、JPMorgan Chase、Citibank、インド最大の保険会社であるLife Insurance Corporation（LIC）を含む25以上のグローバル銀行とも提携しており、機密性の高い金融データを扱う顧客基盤も有しています。MoEngageは、Adobe、Oracle、Salesforceといった既存のマーケティングプラットフォームから300以上の顧客を獲得し、北米およびEMEA地域での成長を牽引しています。
データセキュリティとプライバシーへの示唆
MoEngageのプラットフォームは、オフライン店舗、ウェブサイト、モバイルアプリなど、あらゆるタッチポイントからの顧客データを統合し、一元的に管理することを可能にします。このような広範な顧客データの収集と統合は、パーソナライズされたサービス提供の基盤となる一方で、データセキュリティとプライバシー保護の重要性を一層高めます。
AIが顧客の行動パターンを分析し、最適なマーケティング戦略を自動で決定する中で、データの誤用や不正アクセスに対する厳格な対策が不可欠となります。特に、金融機関や大手企業が利用するプラットフォームとして、顧客の信頼を維持するためには、最高水準のデータ保護とコンプライアンスが求められます。MoEngageのAI機能が進化するにつれて、これらのセキュリティ課題への対応が、今後の成長における重要な要素となるでしょう。
今後の展望
MoEngageは、昨年約40%の年間成長率を達成し、今年は35%の複合年間成長率（CAGR）を維持することを目指しています。また、現在の会計年度末までに四半期ベースで調整後EBITDAが黒字化する見込みです。
同社は、今後数年以内にIPO準備を整える計画であり、北米と欧州を中心に顧客成功、サポート、営業、マーケティングチームを拡大し、さらにAI機能の開発と人材採用を強化する予定です。MoEngageは、「この分野で数十億ドル規模の収益を上げる企業を構築する機会がある」と語り、データ駆動型マーケティングの未来を形作る上で、その役割を拡大していく意向を示しています。