AIの熱問題解決へ:スタートアップが提案する金属積層冷却技術

AIの電力消費と熱問題の深刻化

AI技術の進化に伴い、データセンターにおける電力消費とそれに伴う発熱は、ますます深刻な課題となっています。Nvidiaが2027年にリリースを予定している次世代GPU「Rubin」のUltraバージョンは、最大600キロワットもの電力を消費する可能性があり、これは現在の高速EV充電器の約2倍に相当します。このような膨大な電力消費は、データセンターのラックを冷却する上で大きな障壁となります。特に、サーバー全体の冷却負荷の約20%を占めるメモリやネットワーキングハードウェアといった周辺チップの冷却は、これまで十分な解決策がありませんでした。

Alloy Enterprisesの革新的冷却ソリューション

このAI時代の新たな課題に対し、スタートアップのAlloy Enterprisesは、金属積層技術を用いた革新的な冷却ソリューションを提案しています。同社が開発したのは、銅製のシートを積層して作られるソリッドな冷却プレートです。このプレートは、GPU本体だけでなく、これまで冷却が困難だった周辺チップ(メモリ、ネットワーキングハードウェアなど)の冷却にも対応します。Alloy Enterprisesの共同創設者兼CEOであるAli Forsyth氏は、「ラックの消費電力が120キロワットだった頃は、周辺チップの20%の冷却負荷はあまり気にされませんでしたが、480キロワットから600キロワットへと増加する現在、RAMからネットワーキングチップまで、あらゆるものを液冷する必要がある」と述べています。

独自の製造技術「スタック鍛造」

Alloy Enterprisesの冷却プレートは、独自の積層造形技術「スタック鍛造(stack forging)」によって製造されます。これは一般的な3Dプリンティングとは異なり、金属シートに熱と圧力を加えて結合させることで、単一の金属ブロックのような構造を作り出します。このプロセスにより、従来の機械加工品に見られるような継ぎ目がなく、3Dプリンティング製品に見られるような多孔性もない、堅牢な冷却プレートが実現します。Forsyth氏によると、「原材料の特性をそのまま引き継ぎ、機械加工された銅と同等の強度を持つ」とのことです。この技術は、50ミクロンという微細な特徴を形成できるため、より多くの冷却液を効率的に流すことが可能になります。

優れた性能とデータセンターへの応用

Alloy Enterprisesの冷却プレートは、競合他社の製品と比較して35%優れた熱性能を発揮するとされています。スタック鍛造の複雑さから、同社が内部で設計の大部分を担い、顧客は主要な仕様と寸法を提供する形を取っています。製造プロセスでは、銅ロールの準備と切断、レーザーによる特徴の切削、結合させたくない部分への抑制剤の塗布、そして積層後の拡散結合機による熱と圧力での一体化が行われます。同社はすでにデータセンター業界の「大手企業すべて」と協力していると明かしており、当初アルミニウム合金向けに設計された技術を、データセンターからの強い関心を受けて熱伝導性と耐食性に優れた銅へと転用しました。

AIインフラの安定稼働とセキュリティへの貢献

AIシステムの性能向上には、その基盤となるハードウェアの安定稼働が不可欠です。データセンターにおける効率的な冷却は、過熱によるシステム障害や性能低下を防ぎ、ひいてはAIインフラ全体の信頼性とセキュリティを維持する上で極めて重要な役割を果たします。Alloy Enterprisesのような革新的な冷却技術は、AIの爆発的な発展を支える上で、見過ごされがちなしかし極めて重要なセキュリティ基盤を強化するものと言えるでしょう。安定した動作環境は、サイバー攻撃に対する耐性を高め、データ損失やサービス停止のリスクを低減することにも繋がります。


元記事: https://techcrunch.com/2025/11/05/this-startups-metal-stacks-could-help-solve-ais-massive-heat-problem/