深海採掘が海洋生態系と食料源に与える新たな脅威
深海からのバッテリー鉱物採掘競争が、海洋生物にとって不可欠な食料源を奪う新たな廃棄物の流れを生み出す可能性が、最新の研究で明らかになりました。この研究は、深海採掘の廃棄物が海洋全体に広範な影響を及ぼし、人類の食料源であるマグロなどの大型魚にも影響が及ぶ可能性を指摘しています。
この研究結果は、ドナルド・トランプ前大統領が国際法を回避し、企業に深海商業採掘の許可を与えようとしている中で発表されました。皮肉にも、この研究は国際的な採掘許可を申請した最初の企業の一つによって資金提供されましたが、その結果は深海採掘に対する新たな警告を発する形となりました。
「薄明帯」の生態系への壊滅的影響
研究者たちは、採掘作業が廃棄物を海面下200〜1,500メートルの「薄明帯」に放出すると、微小な動物プランクトンやそれを食べる生物が飢餓に陥る可能性があることを発見しました。この薄明帯は、小魚、甲殻類、ゼラチン質の生物など、多くの生命で賑わう領域です。廃棄物に含まれる粒子は、プランクトンの通常の食料源とサイズが似ているものの、栄養価が10〜100倍も低い「ジャンクフード」であることが判明しました。
この栄養価の低い粒子が薄明帯に流入することで、まずプランクトンが飢え、次にそれを食べるミクロネクトン、そして食物連鎖の上位に位置するクジラやマグロ、カジキなどの大型魚へと、壊滅的な影響が連鎖的に広がると懸念されています。プランクトンは炭素を深海に運び、地球の気候を調整する上でも重要な役割を担っており、その機能不全は地球規模の環境安全保障にも関わる問題です。
国際法を無視する動きと地政学的リスク
カナダのスタートアップ企業であるThe Metals Company(TMC)は、リチウムイオンバッテリー製造に利用されるニッケル、コバルト、マンガンが豊富な多金属団塊の採掘を推進しています。同社とトランプ政権は、国際海底機構(ISA)が深海採掘を規制し、「人類共通の遺産」である天然資源を保護するための「採掘規定」を最終決定するのを待たずに、採掘を進めることを決定しました。
トランプ前大統領は、米国および国際水域での海底採掘を迅速化する大統領令に署名し、TMCはこれに基づき許可を申請しました。しかし、批評家たちはこれらの動きが国際法に違反し、ISA事務総長レティシア・レイス・デ・カルヴァーリョ氏は、深海採掘に対する一方的な行動が「世界の海洋ガバナンスシステム全体を不安定化させる危険な前例」となると警告しています。これは、国際的な資源管理と海洋安全保障に対する重大な脅威と見なされています。
科学者からの警告と採掘停止の訴え
900人以上の海洋科学者と政策専門家は、深海採掘が「多世代にわたる不可逆的な生物多様性の喪失と生態系機能の破壊」をもたらす可能性があるとして、深海開発の一時停止を求める公開声明を発表しています。今回の研究の主著者であるマイケル・ダウド氏は、「私たちは採掘への急ぎ足に逆らい、このプロセスにブレーキをかけようとしている。最善の選択肢を完全に結論付ける科学的根拠がまだない」と述べ、現在の計画が「深刻な影響を引き起こす」と強調しています。
TMCは、廃棄物を薄明帯よりも深い2,000メートルの深さに排出する計画だと主張していますが、研究者たちは、より深い水域でも同様のリスクが存在する可能性を指摘しており、リスクを完全に理解する前に採掘を進めることへの懸念を表明しています。
持続可能な代替案の模索
深海採掘の必要性を減らすための代替案も存在します。テスラ、BYD、フォードなどの自動車メーカーは、ニッケルやコバルトの必要性を排除または制限する従来の充電式バッテリーの代替品に目を向けています。また、より堅牢なリサイクルインフラを構築することで、電気自動車や再生可能エネルギー源に必要なバッテリーが新たな環境危機を引き起こすのを防ぐことができます。
研究の共著者であるブライアン・ポップ教授は、「私たちは(電子廃棄物を)リサイクルできるし、私たちの廃棄物を採掘できる。グリーン革命を推進するために深海を掘り起こす必要はない」と述べ、持続可能な解決策の重要性を訴えています。
元記事: https://www.theverge.com/news/814694/deep-sea-mining-waste-battery-metals-research-trump
