Day One VenturesのMasha Bucherが語る、VCとストーリーテリングの相乗効果

導入:VCとストーリーテリングの融合

Day One Venturesの創設者であるMasha Bucher(マーシャ・ブッチャー)は、かつてPRおよびマーケティング業界で活躍していました。彼女のVCとしての成功は、この異色の経歴によって大きく形作られています。ブッチャー氏は、投資と統合的なPRサポートを組み合わせることで、スタートアップへの影響力を最大化できると考えています。

Day One Ventures独自のビジネスモデル

ブッチャー氏は2018年にDay One Venturesを設立しました。彼女のユニークなアプローチは、単に資金を提供するだけでなく、投資先企業に戦略的なPRサポートを統合して提供する点にあります。これにより、彼女は自身が真に信じるストーリーを持つ企業に深く関与し、その成長を支援しています。

なぜ統合型PR・投資モデルなのか?

ブッチャー氏によると、従来のPRサービスには根本的な問題があると指摘します。一般的なPR会社は契約ベースで業務を行うため、サービスの進行が遅くなる傾向があり、スタートアップにとっては時間とコストの大きな負担となります。

  • コストの問題: 「初期段階の企業がTechCrunchでの発表のためだけに、月に1万ドル、2万ドル、あるいは3万ドルを6ヶ月間も支払うのは公平でも持続可能でもない」とブッチャー氏は語ります。
  • 整合性の問題: 投資家として企業に資金を投じることで、そのストーリーに「文字通り投資している」状態となり、記者に紹介する際の信頼性が格段に高まると彼女は強調します。
  • 情報アクセスの優位性: 投資家デッキから企業のデータルームに至るまですべての情報にアクセスできるため、企業のポジショニングや事業の潜在的な課題を深く理解することができます。

この統合モデルにより、Day One Venturesはスタートアップが最も支援を必要とする重要な初期段階で、迅速かつ効果的なサポートを提供できるのです。

Masha Bucherの投資哲学

ブッチャー氏の投資判断は慎重であり、単なるビジネスの可能性だけでなく、創業者の倫理観や道徳的羅針盤も重視しています。例えば、高度な原子力発電所を開発するValar Atomicsへの投資では、CEOのIsaiah Taylor氏に「文字通り生死に関わる」決断を委ねられるほどの信頼を置いていると述べています。

一方で、倫理的でないマーケティング戦略を取る企業(例:AIスタートアップCluely)には投資しないと明言しています。Day One Venturesのポートフォリオには、以下のような革新的なテクノロジーを持つ企業が含まれています。

  • 生殖医療技術: Orchid(胚選択技術)
  • アクセシブルなヘルスケア: Superpower
  • 法執行ソフトウェア: Abel(AI最適化された報告書作成ツール)

その他、Sam Altman氏のWorld、メールアプリのSuperhuman、リモートワークプラットフォームのRemote.comなどへの初期投資実績があり、12社以上のユニコーン企業1,150億ドル以上のポートフォリオ価値を誇っています。

成長と未来の展望

Day One Venturesは着実に成長を続けており、昨年にはファンドIIIで1億5,000万ドルをクローズしました。これは「人類の最も差し迫った問題解決に取り組む」初期段階の創業者を対象としています。設立から6年間で、資産運用額は1,100万ドルから4億5,000万ドル以上に拡大しました。

ブッチャー氏は、「コミュニケーションを活用して、企業のビジネス目標を解決し、新たな機会を解き放ち、最終的に株主価値を高めたい」と語り、VCとしての役割を超えた戦略的パートナーとしての価値提供を目指しています。


元記事: https://techcrunch.com/2025/12/04/why-day-one-ventures-masha-bucher-thinks-vcs-and-storytelling-go-hand-in-hand/