AI画像生成、あえて「品質を落とす」ことでリアリティを獲得する新潮流

進化するAI画像生成のパラドックス

AI画像生成技術は、驚くべき速さで進化を遂げています。かつては、指の数が多すぎたり、不自然な描写があったりして、すぐにAI製と見破られることが多かったものです。しかし、ここ数年でその状況は一変。AI画像はよりリアルに、そして説得力を持つようになりました。このリアリズムの向上には、実は「あえて画質を少し悪くする」という意外なアプローチが貢献しています。

DALL-Eの初期バージョンが256×256ピクセルのサムネイルのような画像しか生成できなかった頃を覚えているでしょうか。DALL-E 2では1024×1024ピクセルに飛躍しましたが、それでも生成された画像には独特の「のっぺりとした完璧さ」や「光沢感」があり、本物の写真とは一線を画していました。MidjourneyやStable Diffusionなども同様に、初期のAI画像はどこか不自然なほどに洗練されすぎていたのです。

スマホカメラの「不完全さ」を模倣するAI

しかし、最近のAI画像モデルは、その「完璧すぎる」印象から脱却し、より自然なリアリティを追求しています。その秘訣は、「不完全さ」の模倣にあります。不自然なほど整頓された空間ではなく、少し散らかった日常の風景や、理想的とは言えない照明など、現実世界に存在する「ごちゃつき」や「粗さ」を取り入れるようになったのです。

このトレンドの最前線にいるのが、Googleの「Nano Banana」やその進化版「Nano Banana Pro」のようなモデルです。これらは、まるでスマートフォンのカメラで撮影したかのような画像を生成します。コントラストの不足、独特のパースペクティブ、強調されたシャープネス、そして露出の選択といった、スマホカメラ特有の「写り方」を模倣することで、私たちの日常で最も目にする写真のスタイルに近づけています。

これはGoogleに限った話ではありません。AdobeのFireflyには「Visual Intensity」というコントロールがあり、AI特有の光沢感を抑え、よりプロ仕様のカメラで撮影したようなリアルな画像を作り出すことができます。MetaのAIジェネレーターにも「Stylization」スライダーが搭載されており、リアリズムの度合いを調整可能です。さらに、OpenAIのSora 2やGoogleのVeo 3といった動画生成ツールは、あえて低解像度で粒子の粗い監視カメラのような映像を生成し、その「劣化」がかえって現実感を高めています。

「不気味の谷」を超える戦略と認証の必要性

iPhoneの人気カメラアプリ「Halide」の共同創設者であるベン・サンドフスキー氏は、AIがスマホカメラの強い画像処理傾向と親しみやすさを取り入れることで、「不気味の谷」を回避していると指摘しています。AIは、完璧な「現実」を作るのではなく、私たちが現実を記録する方法、つまりその「不完全さ」を模倣することで、画像を信じ込ませる「チートコード」を使っているのです。

しかし、このリアリズムの進化は、私たちが見る画像の「真偽」を判断する上で新たな課題を投げかけています。「サム・アルトマンの見解」のように、将来的に現実の画像とAI画像が混じり合い、私たちがそれに慣れるという可能性もありますが、多くの人はやはり「本物」と「フェイク」を区別したいと考えるでしょう。

そのための解決策として期待されているのが、C2PA(Content Credentials)規格です。Google Pixel 10シリーズの携帯電話では、カメラで撮影されたすべての画像に、どのように作成されたかを示す暗号署名が付与されます。これは、「AI生成画像のみにラベルを付けると、ラベルのないすべての画像が本物であるという暗黙の真実効果(implied truth effect)が生じる」という問題に対処するためです。

  • C2PAが機能するためには、ハードウェアメーカーがこの規格を採用し、画像が作成された時点でAIか否かをマークする必要があります。
  • また、画像が共有されるプラットフォームもC2PAに対応する必要があります。

現状では、多くの携帯電話で撮影された画像にはまだ認証情報が付与されていません。そのため、私たちは「目にするものを何も信用しない」という時代に突入していると言えるでしょう。

AI編集と真偽の境界線

完全にAIが生成した画像だけでなく、AIによる編集ツールも進化しています。Photoshopの生成塗りつぶし機能のように、写真家にとってもAIを活用した編集は一般的になりつつあります。完全にAIが生成した画像と、AIによって加工された写真、そしてAIに全く触れていない写真との境界線は、ますます曖昧になってきています。


元記事: https://www.theverge.com/column/843883/ai-image-generators-better-worse