Amazonの新OS「Vega」とクラウドアプリ戦略
Amazonは、新しいカスタムビルドのエンターテイメントデバイス用オペレーティングシステム「Vega OS」を搭載した「Fire TV Stick 4K Select」を発表しました。この新デバイスのローンチにあたり、Amazonはアプリ不足という課題をクラウドストリーミングで解決するという大胆な戦略を打ち出しています。
既存のFire TVデバイスはAmazonがフォークしたAndroidバージョンで動作しており、開発者にとって両プラットフォームへの対応は負担が大きく、一部の主要パブリッシャーはVegaへのサポートに及び腰であると報じられています。この状況を打開するため、AmazonはVegaにまだ移植されていない人気Androidアプリをクラウドからストリーミング配信することで、ユーザーが期待するアプリを発売当初から提供する計画です。
クラウドアプリプログラムの仕組み
この「Amazon Cloud App Program」は、既存のFire TVアプリをVega OS搭載デバイスで利用可能にするものです。具体的には、Fire TV Stick 4K Maxで動作するアプリが特定の要件を満たせば、クラウドストリーミングを通じてVega OSデバイスで実行できます。
- Amazonは、クラウドストリーミングされるアプリ用にFire TVアプリストアに小さなコンテナアプリを公開します。
- 実際のアプリはAmazonのクラウドサーバーからストリーミングされ、コンテナアプリ内で動作します。
- アプリ内で視聴されるビデオコンテンツはデバイスに直接ストリーミングされるため、Amazonサーバーでのトランスコーディングは発生しません。
- ユーザーは、アプリストアで「Amazonクラウドホスト型アプリ」として通知を受け取ります。
開発者へのインセンティブとAmazonの積極的な取り組み
このプログラムは主に主要パブリッシャーのアプリを対象としており、Amazonは開発者に対し、クラウドストリーミングを最初の9ヶ月間は無料で提供することで、その間にネイティブのVegaアプリを開発するよう促しています。その後は、月間アクティブユーザー数に基づいた料金が課される可能性があります。
さらに注目すべきは、Amazonがパブリッシャーの対応を待つだけでなく、人気のあるAndroidアプリを積極的にクラウドストリーミングの対象としている点です。開発者はAmazon開発者ポータルで自身のアプリのデバイスサポート状況を確認することで、クラウドアプリプログラムに登録されているかを知ることができます。
クラウドストリーミングの先行事例とセキュリティの考慮事項
TVアプリのクラウドストリーミング自体は新しい概念ではありません。過去にはActiveVideoやSynamediaが同様の技術を提供しており、Amazon自身もゲームサービス「Luna」でクラウドストリーミングを活用しています。ただし、AndroidベースのFire TVでネイティブに動作するゲームはVega OSのクラウドストリーミングプログラムの対象外であり、LunaやMicrosoftのXbox Game Passは今後Fire TV 4K Selectでネイティブに利用可能になる予定です。
Amazonは「常にマルチOS企業である」と述べ、今後もFire OSデバイスのサポートを継続する方針を示しています。しかし、このクラウドストリーミング戦略は、セキュリティの観点からいくつかの考慮事項を提起します。
- データ分離とアクセス制御:クラウド上で実行されるアプリのデータがどのように分離され、アクセスが制御されるのかは重要なポイントです。
- 脆弱性管理:クラウドで実行されるAndroidアプリの脆弱性パッチ適用や管理は、誰の責任で行われるのか、またそのプロセスは透明性があるのかが問われます。
- ユーザーの認識:ユーザーが「Amazonクラウドホスト型アプリ」という表示を見た際に、それがネイティブアプリとは異なるセキュリティプロファイルを持つ可能性があることを十分に理解できるかどうかも課題です。
- 開発者の同意と責任:Amazonが開発者の同意なしにアプリをクラウドストリーミングの対象とする場合、アプリの動作保証やセキュリティに関する責任の所在が曖昧になる可能性があります。
Amazonのこの戦略は、ユーザー体験を向上させる一方で、新たなセキュリティリスクを導入しないよう、厳格な対策と透明性が求められるでしょう。
元記事: https://www.theverge.com/column/790144/amazons-vega-os-streaming-cloud