NASA、火星探査の未来を左右する次期通信衛星の選択迫る

差し迫るNASAの火星通信衛星計画

NASAは、次期火星探査に使用する通信衛星の選定において、極めて重要な決断を迫られています。近年のMAVEN探査機の損失や、20年間運用されているマーズ・リコネッサンス・オービターの老朽化により、火星と地球間の安定した通信を中継できる新たな宇宙機が喫緊の課題となっています。

この重要性を鑑み、米国議会は昨年可決された「One Big Beautiful Bill」のNASA補正予算において、7億ドルの資金を「火星通信オービター」に計上しました。これは通信衛星単体としては異例の巨額予算であり、今後の火星探査におけるインフラの重要性を示唆しています。

予算と法案の焦点

テッド・クルーズ上院議員(共和党、テキサス州)主導のこの法案は、いくつかの重要な疑問を提起しました。特に、オービターの選定は「2024年または2025年に火星サンプルリターンミッションの商業設計研究で資金提供を受けた米国企業」から行われるべきだと明記されており、これはRocket Labとその通信オービター提案を優遇する意図があるように見受けられます。

また、この7億ドルという予算額自体も議論の対象となっています。一部の業界関係者は「通信ペイロード、衛星バス、打ち上げ費用として5億ドルで十分であり、実際にはそれ以下で提供可能だろう」と指摘しており、余剰とみられる資金の使途が注目されています。

科学か、通信特化か?NASA内部の議論

潤沢な資金があることから、NASA内部ではオービターに科学機器を搭載すべきだという声が高まっています。ある科学関係者によると、約2億ドルで3つの優れた科学機器を追加できるとのことです。高解像度カメラ(20年物のマーズ・リコネッサンス・オービター搭載機は老朽化が著しいため、特に必要性が高い)、宇宙気象ペイロード、火星の残存磁場を理解するための磁力計、地表近くの水氷を探す分光計などが提案されています。過去に中止されたマーズ・アイス・マッパーミッションの機器を転用する可能性も浮上しています。

惑星協会の宇宙政策責任者ケイシー・ドライヤー氏は、「すでに火星に向かうミッションに科学機器パッケージを追加することは、NASAの科学最大化目標と整合する」と述べています。しかし、NASA内の一部のリーダーは、クルーズ法案の文言が通信オービターに限定されていると解釈しており、9月末までに通信機能以外の要素を含めて調達競争を行うことは困難だと考えています。NASAの広報担当者はArs Technicaに対し、「NASAは、火星ミッションに堅牢で継続的な通信を提供する高性能の火星通信オービターを調達する」と述べ、通信機能に特化する意向を示しています。

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迫り来る意思決定の期限と商業競争

新長官ジャレッド・アイザックマン氏は、科学機器の搭載の有無についてまだ決定を下していません。しかし、法案は資金を2026会計年度末(2026年9月30日)までに義務付けることを要求しており、2028年後半の火星への最短打ち上げ窓に間に合わせるためには、間もなくミッションを決定する必要があります。2026年の火星打ち上げ窓には、NASAのミッションは現在予定されておらず、この通信オービターがトランプ政権下で火星に打ち上げられる唯一の宇宙機となる可能性も指摘されています。

この決定は、商業宇宙企業にとっても大きな意味を持ちます。長年の実績を持つLockheed Martinに加え、Rocket Lab、Blue Origin(Blue Ringベースの設計)、SpaceX(改良型Starlink V3衛星)といった新興企業も、火星探査市場への参入を目指しており、2028年の打ち上げ窓に間に合う可能性が高いとされています。NASAが先日、一時的に「競争によらない調達の正当化通知(JOFOC)」を政府ウェブサイトに掲載し、すぐに削除したことは、今後の調達プロセスが複雑になる可能性を示唆しています。この通知は、法案で定められた資格を満たす企業(Blue Origin、L3Harris、Lockheed Martin、Northrop Grumman、Rocket Lab、SpaceX、Quantum Space、Whittinghill Aerospace)のみを対象としたものでした。契約の遅延を避けるための動きと見られますが、透明性と公平性を巡る議論は今後も続きそうです。


元記事: https://arstechnica.com/space/2026/01/nasa-faces-a-crucial-choice-on-a-mars-spacecraft-and-it-must-decide-soon/