学術不正ビジネスとロシアの戦争経済:Google広告を悪用した新たな手口
オンラインの学術不正代筆サービスが、そのビジネスモデルを大きく転換しています。特に注目すべきは、約2500万ドルもの収益を上げてきた巨大な代筆ネットワークが、ロシアのウクライナ侵攻と密接な関係を持つクレムリン系オリガルヒとロシアの最大手私立大学に繋がっていたという衝撃的な調査結果です。ITニュースサイト「Krebs on Security」の調査によると、このネットワークはGoogle広告を悪用し、学術不正をAI企業への再ブランディングという形で巧妙に隠蔽してきました。
「Nerdify」ブランドの裏側:偽りの名誉規範と巧妙な広告戦略
学術不正サービスは、「nerd」や「geek」といった名称を用いたウェブサイトを多数展開しています。例えば、「thenerdify[.]com」や「geekly-hub[.]com」などがその代表です。これらのサイトは「名誉規範」を掲げ、不正行為を助長しないと主張していますが、実態は大きく異なります。テストの結果、わずか数分でAIによる盗作チェックをクリアした3ページのエッセイを注文できることが判明しました。
Googleは「不正行為を助長する広告」を禁止しているにもかかわらず、このネットワークはキプロス、マルタ、香港にまたがる複雑な法人構造を駆使し、約2500万ドルの収益を上げてきました。Googleから広告アカウントが停止されると、彼らはすぐに新たな法人(多くの場合、ウクライナ人女性をフロントパーソンとする)を設立し、新しいウェブサイトとドメイン名で再びGoogle広告を展開するという手口を繰り返しています。
- 2025年1月以降にGoogle広告によって閉鎖された英国企業:
- Proglobal Solutions LTD (nerdifyit[.]comを宣伝)
- AW Tech Limited (thenerdify[.]comを宣伝)
- Geekly Solutions Ltd (geekly-hub[.]comを宣伝)
- 現在活動中のGoogle広告アカウント:
- OK Marketing LTD (geekly-hub[.]netを宣伝)
- Two Sigma Solutions LTD (litero[.]aiを宣伝)
キーパーソンたちの複雑なネットワーク:Pokatilo、Perkon、そしてSynergy大学
このネットワークの中心人物は、Alexey PokatiloとFilip Perkonです。Pokatiloは2009年からエッセイ代筆ビジネス「Livingston Research」を運営し、その後Perkonと共にテキストメッセージによるタスクアウトソーシングサービス「Awesome Technologies」を共同設立しました。Pokatiloは現在、AIベースのエッセイ作成サービス「Litero.Ai」を運営しており、80万ドルのシード資金を調達しています。
一方、Perkonは「Awesome Technologies」の共同設立者であるだけでなく、ロシアのプロパガンダツール「Russian Diplomatic Online Club」の設立に関与し、オンラインでのロシアのメッセージングを「ターボチャージ」することを目指していました。また、Perkonはロシア大使館からその活動を称賛され、英国のEU離脱を巡る議論の際には、ロシア大使の投稿を自動でリツイートするツールを運用していました。
Perkonはまた、ロシア最大手私立大学である「Synergy University」の英国子会社の役員を務めていました。Synergy Universityは3万5000人以上の学生を抱え、「クリミアは我々のもの」といった愛国的なスローガンを掲げています。学長のVadim Lobovはクレムリンの内部関係者であり、PerkonとLobovは長年、英国で「Russian Film Week」という文化イベントを共同開催していました。
疑惑のSynergy University:学費詐欺と戦闘用ドローン開発
Synergy Universityは、国際的な教育機関としての顔を持つ一方で、その裏では暗い実態が浮かび上がっています。ナイジェリア、ケニア、ガーナなどからの留学生数百人が、高額な授業料を前払いしたにもかかわらず、ビザが却下された後に返金が拒否されるという詐欺被害を訴えています。このパターンは、パキスタン、ネパール、インドなどの学生からも報告されており、同大学が組織的に国際学生から学費を搾取している疑いが強まっています。
さらに衝撃的なことに、Synergy Universityはロシア政府のウクライナ戦争遂行に直接関与している疑いがあります。同大学のウェブサイト「bpla.synergy[.]bot」には、ロシア軍を支援するための戦闘用ドローンの開発に携わっていることが明記されており、ハイテク製品の供給と再輸出に関する国際的な制裁を回避していると指摘されています。
渦中の人物たちの反論と残る疑問
記事公開後、Alexey PokatiloはSynergy UniversityやVadim Lobovとの関係、そしてPerkonとの協力関係の終了を否定しました。彼は自身の会社「Litero.ai」が「契約による不正代筆サービスを提供しておらず、AIの普遍的な利用時代における透明性と学術的誠実さを向上させるために構築されている」と主張しています。また、自身がウクライナ人であり、ロシアの戦争努力への関与は「個人的に深く不快であり、会社の評判を傷つける」と述べています。
Filip PerkonもNerdifyとのビジネス関係を否定し、自身のNerdify Tシャツの写真はサンフランシスコのイベントでのボランティア活動だと説明しました。Synergy大学については、2013年までベンチャーキャピタル部門で働いていたこと、そしてRussian Film WeekがSynergyからの後援を受けていたことを認めつつも、2021年以降はVadim Lobovとのビジネス関係はないと述べています。
これらの反論にもかかわらず、学術不正が国家レベルの戦略や戦争遂行と結びつく可能性を示唆する今回の調査結果は、IT、教育、そして国際政治の領域に大きな波紋を広げています。Google広告の適切な規制や、教育機関の透明性確保の重要性が改めて浮き彫りになっています。
