テック企業の炭素除去プロジェクト、トランプ政権の標的に – 気候変動対策の脆弱性と国家安全保障への影響

テック企業の気候変動対策が政治的逆風に直面

テクノロジー企業が多額の資金を投じてきた二酸化炭素直接回収(DAC)プロジェクトが、ドナルド・トランプ政権の標的となり、連邦政府からの資金援助が打ち切られる事態に直面しています。これは、気候変動対策における政治的変動への脆弱性を浮き彫りにし、企業の持続可能性目標達成に大きな不確実性をもたらしています。

トランプ政権による資金削減の背景

ジョー・バイデン前政権下では、DACハブへの連邦資金投入を通じて気候変動対策を推進していましたが、トランプ新政権は「気候変動はデマ」と主張し、「掘削、ベイビー、掘削」を掲げる政策を推進。先週、エネルギー省は223件のクリーンエネルギーおよび気候変動プロジェクトに対し、総額約75億ドル相当の資金援助を打ち切ると発表しました。この中には、少なくとも10件のDACハブへの助成金が含まれており、特にカリフォルニア州のスタートアップ企業CarbonCaptureがルイジアナ州で計画していたDACプラントのエンジニアリング調査助成金も対象となりました。

テック企業の持続可能性目標への影響

マイクロソフトやアマゾンといった大手テック企業は、DACプロジェクトに多大なコミットメントを行ってきました。例えば、マイクロソフトは2023年にCarbonCaptureと契約を結び、カーボンネガティブ達成を目指しています。しかし、今回の資金削減により、CarbonCaptureは初の商業パイロットプロジェクトをアリゾナ州からカナダのアルバータ州へ移転することを決定。Carbon180のエグゼクティブディレクターであるエリン・バーンズ氏は、「彼らが米国でプロジェクトに資金を投じるのか、それとも他の場所で投じるのかが問題だ」と指摘しており、米国内での持続可能性目標達成が困難になるリスクが浮上しています。

国家イノベーションと安全保障への打撃

今回の資金削減は、DAC技術だけでなく、水素燃料やタービン、バッテリー製造など、幅広いクリーンエネルギー産業に影響を及ぼしています。バーンズ氏はこれを「米国が持つ大きな優位性を手放すことだ」と述べ、アメリカのイノベーションと技術的リーダーシップに対する深刻な打撃であると警鐘を鳴らしています。特に、AIの発展に伴いテック企業の炭素排出量が増加している現状において、DACのような除去技術の停滞は、環境安全保障上の課題をさらに深刻化させる可能性があります。

化石燃料企業との対比

興味深いことに、シェブロンやオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)といった石油・ガス企業が支援する一部のDACハブは、今回の資金削減の対象外でした。オクシデンタルは、回収した炭素を強化石油回収(EOR)に利用し、さらなる石油採掘に役立てる計画を進めています。このことは、気候変動対策が伝統的なエネルギー産業の利益と結びつく傾向を示唆しており、小規模なDAC企業が連邦資金なしで事業を継続することの難しさを浮き彫りにしています。

今後の展望と課題

トランプ政権の政策は、DAC産業が直面する既存の課題(コスト、エネルギー消費、スケーラビリティ)に加えて、新たな政治的リスクをもたらしています。環境保護団体の中には、DACが排出量削減努力の代替手段となることを懸念する声もありますが、一方で、すでに排出された炭素を回収するDACは気候変動対策に不可欠だという意見も根強くあります。今回の資金削減は、米国の気候変動対策の進展を大きく後退させ、将来的な環境安全保障に不確実性をもたらすものと見られています。


元記事: https://www.theverge.com/report/792812/trump-funding-cut-climate-carbon-removal-hub