はじめに: 英国CMAがGoogleに「特別市場地位」を付与
英国の競争・市場庁(CMA)は、Googleのオンライン検索および検索広告市場に対し、「戦略的市場地位(Strategic Market Status)」を付与しました。この決定は、Googleが市場において「実質的かつ強固な」地位を確立していると判断されたためであり、これによりCMAは同社に対するより厳格な規制を導入する道を開くことになります。
CMAは報告書の中で、「Googleは長期間にわたり、このデジタル活動において比類のない地位を占めてきた。他の従来の一般検索プロバイダーはGoogleよりも著しく規模が小さく、その状況は長年変わっていない」と述べています。最大の競合であるBingでさえ、検索クエリと検索広告のシェアは5%未満であり、過去15年間でGoogleに対して実質的な成長を遂げたプロバイダーは存在しないと指摘されています。
指定の背景とGoogleの市場支配
今回の指定は、英国の新しいデジタル市場競争体制が今年1月に施行された後、Googleに対する9ヶ月にわたる調査を経て行われました。CMAは、Googleが競争を弱め、検索分野における参入とイノベーションの障壁となっているか、自社サービスを第三者のサービスよりも優遇しているか、そしてユーザーデータを明示的な同意なしに使用しているかについて調査を進めていました。
この指定は、現時点でGoogleが不正行為を行ったと認定するものではなく、直ちに新たな要件を課すものでもありません。しかし、CMAはこれにより、Googleが国内で検索サービスを運営する方法を変更するためのさらなる評価と介入を開始できると説明しています。
規制の対象範囲とAIへの影響
今回の指定は、Googleの検索およびオンライン検索広告サービス、AIを活用した検索機能(AI OverviewsやAI Modeなど)、『Discover』フィードと結果、そして「Top Stories」およびニュースタブを対象としています。Google Newsアプリやウェブサイト、検索シンジケーションサービスは対象外です。
特に注目すべきは、AIを活用した検索機能が規制対象に含まれている点です。CMAは、GoogleのGemini AIアシスタントは現時点では指定の対象外であるものの、AI検索市場の進化に伴い、その範囲を見直す可能性があると述べており、今後のAI技術の発展と規制の動向が注目されます。これは、AIが生成する情報やその利用における透明性、公平性、そしてユーザーのプライバシー保護といったセキュリティ上の懸念が高まっていることを示唆しています。
今後の介入と潜在的な影響
CMAが検討している介入策のロードマップには、以下のようなものが含まれています。
- 英国居住者が検索エンジンを選択・切り替えできる「選択画面」の導入
- データポータビリティシステムの実施
- 検索結果の公正なランキングの強制
- 検索におけるパブリッシャーの著作物の適切な帰属表示の確保
- GoogleのAIサービスに対する同意メカニズムの導入
これらの介入は、ユーザーが自身のデータと検索体験をより詳細に管理できるようになる可能性を秘めており、特にデータポータビリティとAIサービスへの同意メカニズムは、ユーザーのプライバシーとセキュリティを強化する上で重要な要素となるでしょう。
Google側の反論
Googleは、今回の指定に続くあらゆる介入が英国のイノベーションを損なうと反論しています。同社はブログ投稿で、「英国は、検索のような人気サービスに対する高コストな制限をこれまで避けてきたため、他国よりも最新の製品やサービスにアクセスできる。この地位を維持するためには、過度に煩雑な規制を避け、他国で見られたマイナスの結果から学ぶ必要がある」と主張しています。
また、Googleは、提案されている介入策の多くが英国のイノベーションと成長を阻害し、「AIベースのイノベーションが深化する時期に製品投入を遅らせる可能性」があると警告しています。さらに、一部の介入は企業に直接的な損害を与え、顧客への価格引き上げを余儀なくされる可能性があるとも述べています。この議論は、市場の公平性とユーザー保護を目的とした規制と、技術革新の自由との間のバランスという、現代のデジタル経済における重要な課題を浮き彫りにしています。