米国の核融合エネルギーロードマップ:AI活用と国家安全保障への期待、そして資金の壁

はじめに:核融合エネルギーの新たな展望

米国エネルギー省(DOE)は、長年の夢であった核融合エネルギーの実用化に向けた新たなロードマップを発表しました。これは、研究開発努力を支援し、官民パートナーシップを通じて次世代の核融合発電所を建設するというコミットメントです。しかし、この野心的な計画は、現時点では資金の裏付けがないという課題に直面しています。

DOEは、2030年代半ばまでに商業規模の核融合発電を電力網に導入するという極めて野心的な目標を掲げていますが、その達成方法は依然として曖昧です。成功は、一世紀近く科学者たちを悩ませてきた科学的ブレークスルーにかかっており、急成長するスタートアップや研究者たちは、DOEがまだ提供できないと認めているより多くの資金を求めています

AIが牽引する核融合研究とデータセンターの電力需要

このロードマップでは、AIが核融合研究における新たなブレークスルーを導くツールとして、またデータセンターの増大する電力需要を満たす新しいエネルギー源を創出する動機付けとして、その重要性が強調されています。生成AIのブームは、大手テクノロジー企業がより多くのデータセンターを稼働させるための十分な電力を確保しようと躍起になっている現状を生み出しています。

サム・アルトマン、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスといった著名人も核融合スタートアップを支援しており、GoogleとMicrosoftは、2020年代後半から2030年代に稼働予定の核融合発電所からの電力購入計画を発表しています。DOEによると、これまでに90億ドル以上の民間投資が核融合の実証とプロトタイプ炉に流入しています。

核融合の可能性と技術的課題

今日の核分裂発電所が原子を分裂させてエネルギーを放出するのに対し、核融合発電所は原子を融合させて制御された方法でエネルギーを生成します。核融合の利点は、核分裂のような放射性廃棄物を生成せず、汚染を引き起こす化石燃料に依存しないことです。核融合は本質的に、恒星が自身の光と熱を生成する方法を模倣しています。

これは豊富な炭素フリーのエネルギー源となる可能性がありますが、原子を融合させるには莫大な熱と圧力が必要です。その結果、正味のエネルギー利得(業界用語で「点火(ignition)」と呼ばれる)をもたらす核融合反応を達成することは、これまで非常に困難でした。科学者たちは2022年にレーザーを使用して初めてこれを達成し、研究者たちはこの偉業を再現し、反応をより長く持続させる方法を模索しています。

国家安全保障とインフラ構築への道

ロードマップは、核融合を商業的に実現可能にするために必要な「クリティカルインフラ」を構築するため、官民連携を強調しています。これには、核融合燃料(通常はトリチウムと重水素と呼ばれる水素同位体)の生産とリサイクル、そして核融合発電所の極限状態に耐えうる十分な強度を持つ構造材料の開発が含まれます。核融合プラントは、将来的に国家のエネルギー安全保障を支える重要なインフラとなるため、その堅牢性と安定性は極めて重要です。

また、DOEの研究所が大学、地方政府、民間企業と協力して、これらの新技術のための労働力を育成する地域ハブの開発も言及されています。例えば、Nvidia、IBM、プリンストン・プラズマ物理学研究所、DOEの協力による「Stellar-AI」と呼ばれるAI最適化核融合スーパーコンピューティングクラスターの設立が計画されています。AIモデルは「デジタルツイン」を構築し、実験施設の性能をより迅速に研究するために利用できるとされています。

資金調達の不確実性と今後の展望

しかし、このロードマップには大きな免責事項が付されています。エグゼクティブサマリーの冒頭には、「このロードマップは、エネルギー省が特定の資金レベルを約束するものではなく、将来の資金は議会による歳出に左右される」と明記されています。つまり、DOEは現時点ではこの計画に資金を投入する準備ができていないということです。

トランプ政権は化石燃料、核分裂、核融合を「エネルギー支配」の野心に組み入れていますが、すでに展開がはるかに速く、通常は安価な太陽光および風力エネルギープロジェクトへの資金を削減しています。核融合エネルギーが米国のエネルギー安全保障技術的優位性を確立する上で重要な役割を果たす可能性を秘めているにもかかわらず、資金不足という現実的な障壁がその進展を遅らせる可能性があります。


元記事: https://www.theverge.com/news/802070/nuclear-fusion-energy-ai-trump-roadmap