YouTuberが広告収入に依存しない時代:クリエイター経済の新たな「セキュリティ戦略」

はじめに

YouTubeはクリエイターにとって大きな収益機会を提供してきましたが、近年、多くのYouTuberが広告収入やブランド契約への依存度を減らしています。これは、プラットフォームのポリシー変更や市場の変動といった予測不可能なリスクから自身のビジネスを守るための、新たな「セキュリティ戦略」として注目されています。

収益源多様化の背景

YouTuberが収益源の多様化を進める背景には、いくつかの重要な要因があります。

  • 広告収入の不安定性: YouTubeのポリシー更新により、動画の広告掲載が困難になることがあり、収益が不安定になるリスクがあります。
  • 収入源の脆弱性: プラットフォームに依存した収入は、予期せぬ形で失われる可能性があります。
  • アルゴリズムやポリシー変更への対応: アルゴリズムの変更やプラットフォームのポリシー変更が、クリエイターの収益に直接的な影響を与えるため、これらに左右されない安定した基盤が求められています。

これらのリスクを認識し、多くのYouTuberは単なるコンテンツクリエイターではなく、垂直統合されたメディア企業として、独自の製品ライン、実店舗、消費者ブランドを構築しています。

経済的安定のための戦略

クリエイターたちは、YouTubeチャンネルの運営と並行して、以下のような多角的な事業を展開することで、経済的な安定と持続可能性を確保しています。

  • 製品ブランドの立ち上げ: 飲食品、アパレル、美容製品など、自身のブランドを冠した商品を開発・販売。
  • 実店舗の展開: オンラインだけでなく、物理的な店舗を持つことで顧客接点を拡大。
  • メディア以外の事業投資: テクノロジー企業への投資や、新たなサービス(MVNO、金融アプリなど)の立ち上げ。

これらのサイドビジネスは、YouTubeチャンネルよりも速く、より持続的に成長するケースも少なくありません。

主要YouTuberの事例

MrBeast

4億4200万人以上の登録者を持つMrBeastことジミー・ドナルドソンは、最も積極的な起業家の一人です。2018年のグッズストア「ShopMrBeast」から始まり、現在はスナックブランド「Feastables」を含む多角的なビジネスポートフォリオを築いています。Feastablesは、発売から72時間で1000万ドル以上の売上を記録し、現在では彼のYouTubeコンテンツやPrime Videoの「Beast Games」よりも収益性が高いとされています。2024年には約2億5000万ドルの収益と2000万ドル以上の利益を上げ、メディア事業の損失を補填しています。その他にも、食品ブランド「Lunchly」、玩具ライン「MrBeast Lab」、「MrBeast Burger」、分析プラットフォーム「Viewstats」など、多岐にわたる事業を展開し、さらにはMVNOや銀行・金融アドバイザリー・仮想通貨交換サービスを提供するモバイルアプリへの進出も計画しており、強固なビジネスエコシステムを構築しています。

Emma Chamberlain

2016年にティーンのVloggerとして名を馳せたエマ・チェンバレンは、1200万人以上の登録者を持ち、飲料業界で成功を収めています。2019年に立ち上げたコーヒーブランド「Chamberlain Coffee」は、コールドブリュー、コーヒーポッド、豆、紅茶、抹茶など多様な製品を提供。2023年には約2000万ドルの収益を上げ、2025年には50%以上の成長で3300万ドルを超えると予測されています。オンライン販売だけでなく、Target、Sprouts、Walmartなどの小売店での展開に加え、今年1月には初の実店舗をオープンし、ブランドの「セキュリティ」をさらに強化しています。

Logan Paul

2360万人以上の登録者を持つローガン・ポールは、共同設立したエナジードリンクブランド「Prime」で急速な成功を収めました。2023年には12億ドル以上の売上を達成し、従来の広告収入をはるかに上回る巨大な収益源となっています。また、アパレルブランド「Maverick Apparel」も2020年に3000万ドルから4000万ドルの売上を記録しており、彼のビジネスの多様性を示しています。

その他の事例

  • Ryan’s World: 13歳のライアン・カジは、玩具レビューから始まり、玩具やアパレルライン、テレビ番組、教育アプリへとブランドを拡大し、2020年には2億5000万ドル以上の収益を報告しています。
  • Rosanna Pansino: 料理系YouTuberのロザンナ・パンシーノは、料理本やベーキングツールを販売し、「Nerdy Nummies」ブランドを確立しています。
  • Michelle Phan & Huda Kattan: 美容系YouTuberのミシェル・ファンは美容サブスクリプションサービス「Ipsy」と自身のメイクアップライン「EM Cosmetics」を共同設立し、フーダ・カッタンは世界的に認知される美容ブランド「Huda Beauty」を立ち上げ、プラットフォームに依存しない強固なビジネス基盤を築いています。

まとめ

YouTuberが広告収入やブランド契約から離れ、独自のビジネスを構築する動きは、クリエイター経済における新たな「セキュリティ」の形を示しています。プラットフォームの変動性や予測不可能なリスクから自身のキャリアと収益を守るため、彼らは起業家精神を発揮し、多角的な事業展開を通じて持続可能な成長モデルを確立しています。このトレンドは、将来のクリエイターにとって、単なるコンテンツ制作にとどまらない、より強靭なビジネス戦略の重要性を浮き彫りにしています。


元記事: https://techcrunch.com/2025/10/18/youtubers-arent-relying-on-ad-revenue-anymore-heres-how-some-are-diversifying/