TiVo、法廷闘争には勝利するもテレビ市場の覇権争いには敗れる

TiVoの栄光と「タイムワープ」特許

2000年代、TiVoはその名を動詞に変えるほどの成功を収めました。GoogleやXeroxのように、「録画する」という行為は「TiVoする」と表現されるほどでした。TiVoはデジタルビデオレコーダー(DVR)を発明したわけではありませんが、ライブTVの一時停止や巻き戻し、裏番組録画といった画期的な機能を普及させ、人々のテレビ視聴体験を根本から変えました。これらの革新的な機能は、後に「タイムワープ」特許として知られる米国特許6,233,389によって保護されていました。

長期にわたる特許訴訟の時代

TiVoは、その知的財産権を守るため、2000年代から2010年代初頭にかけて、数々の高額な特許侵害訴訟に巻き込まれました。特にEchoStarとの訴訟は10年近く続き、最終的に2011年4月には5億ドルの和解金がTiVoに支払われました。Motorola、Time Warner Cable、AT&T、Dish Network、Cisco、Verizonといったテレビおよびデジタルビデオ業界の主要企業も、TiVoからの訴訟の対象となりましたが、TiVoはほとんどのケースで勝利を収めました。米国特許庁も2度にわたる再審査で特許の主張を再確認しており、この期間、特許ライセンスがTiVoの主要な収益源となっていきました。

市場の変化とイノベーションの遅れ

しかし、TiVoが法廷闘争に多大なリソースを費やしている間に、テレビ市場は劇的な変化を遂げていました。2007年にはNetflixがストリーミングサービスを開始し、HuluやRokuもそれに続きました。スマートTVの登場もこの時期と重なります。ケーブルTVプロバイダーがDVRを標準提供するようになると、TiVoの別途購入が必要なハードウェアと追加のサブスクリプション料金は、消費者に受け入れられにくくなりました。TiVoのハードウェアは停滞し、ストリーミングサービスへの対応も後手に回りがちでした。

さらに、「コードカッティング」(有料TV契約の解約)が加速するにつれて、放送テレビの操作に焦点を当てたTiVoの特許は、その価値を失っていきました。nScreenMediaによると、米国の有料TV契約者数は2010年の約1億300万世帯をピークに、2025年にはわずか4,960万世帯にまで減少しています。対照的に、NetflixやDisney Plusといったストリーミングサービスは、数千万規模の加入者を獲得し、市場の主役となりました。

TiVoの終焉と特許ビジネスへの転換

市場の変化に適応できなかったTiVoは、最終的に特許管理を主業務とするRoviに買収され、その後2020年には技術ライセンス企業Xperiに買収されました。Xperiとの合併発表では、革新的なハードウェアやソフトウェアではなく、「業界最大かつ最も多様な知的財産(IP)ライセンスプラットフォーム」が強調されました。そして2025年9月30日、TiVoは静かにハードウェア事業から撤退し、最後の在庫を売却しました。現在、同社はスマートTV OSに注力する計画ですが、これは「15年遅い」動きであると評されています。

教訓:特許保護と市場適応のバランス

TiVoの物語は、知的財産権の強力な保護がいかに重要であるかを示す一方で、市場の動向を読み、継続的なイノベーションを通じて適応する能力が、企業の長期的な存続にとって不可欠であることを浮き彫りにしています。過去の成功と特許による収益に固執し、法廷闘争にリソースを集中しすぎた結果、TiVoは新たな技術的脅威(ストリーミング)を見過ごし、最終的にテレビ市場の主導権を失いました。これは、ビジネス戦略におけるセキュリティ、すなわち、市場の変化に対する警戒心と、技術的優位性を維持するための戦略的投資の重要性を示す、現代の企業にとって貴重な教訓と言えるでしょう。


元記事: https://www.theverge.com/tech/802254/tivo-time-warp-patent-courtoom-battles-lost-tv-war