はじめに:Googleの新たなエネルギー戦略
テクノロジー大手Googleが、データセンターの電力需要を満たすため、新たなエネルギー戦略を発表しました。これは、ガス火力発電所に二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術を組み合わせたプロジェクトへの支援です。しかし、この動きは、気候変動対策としてのCCSの有効性や、化石燃料への依存を長期化させる可能性について、大きな議論を巻き起こしています。
CCS技術とは何か?
CCS(Carbon Capture and Storage)技術は、発電所や工場から排出される二酸化炭素を排煙から分離し、地下深くに貯留することで、大気中への温室効果ガス放出を抑制する技術です。理論上は、地球温暖化の進行を遅らせる手段として期待されていますが、その技術的・経済的実現可能性には長年疑問が呈されてきました。
CCSを巡る論争と過去の課題
CCS技術は、これまで米国で成功事例が少ないという課題を抱えています。米国エネルギー省(DOE)は、過去に数億ドルをCCSプロジェクトに投じてきましたが、政府会計検査院(GAO)の2021年の報告書によると、6つの石炭火力発電所プロジェクトのうち、稼働に至ったのはわずか1つでした。他のプロジェクトは「経済的存続可能性に影響を与える要因」により頓挫しています。
- CCSを導入した発電所の電力コストは、太陽光、風力、または従来の石炭・ガス火力発電所の1.5倍から2倍に上るとの報告があります。
- 過去のプロジェクトでは、回収したCO2を「強化石油回収(EOR)」に利用し、経済的存続性を確保しようとするケースもありましたが、これは化石燃料の採掘を促進するという批判に直面しました。
このような背景から、CCSが化石燃料への依存を長引かせ、より持続可能なエネルギー源への移行を妨げるのではないかという強い懐疑論が存在します。
Googleが支援する「Broadwing Energy Center」
Googleが今回支援を表明したのは、イリノイ州に建設される「Broadwing Energy Center」という400MW規模のガス火力発電所です。Googleは、2030年の稼働開始後、この発電所が生産する電力の「ほとんど」を購入する契約を結んでいます。Googleは、この取り組みを通じて「有望な新しいCCSソリューションを市場に投入し、迅速に学習し革新する」ことを目指していると述べています。
Broadwingプロジェクトは、過去のCCSプロジェクトとはいくつかの点で異なるとされています。
- 燃料として石炭ではなくガスを使用します。
- 回収されたCO2は、強化石油回収ではなく、発電所近くの地下1マイルに永久貯留される予定です。
- Googleは、このプラントが排出される二酸化炭素の約90%を恒久的に貯留できると主張しており、これは他の多くのCCSプロジェクトが達成してきた数値よりも高いとされています。
ガス火力発電の隠れた環境問題
しかし、CO2排出量の回収率が高いとしても、ガス火力発電所には他の環境問題が伴います。ガス発電所は主にメタンを燃焼させますが、メタンは二酸化炭素よりもはるかに強力な温室効果ガスです。メタンは石油・ガス井やパイプラインから日常的に漏洩しており、発電所でのCO2回収だけではこの問題は解決されません。また、ガス発電所は、周辺地域の健康リスクとなる他の大気汚染物質も排出します。
再生可能エネルギーとの比較と政治的背景
現在、太陽光発電や陸上風力発電は、ガス火力発電所よりも安価に導入可能であり、気候変動に関する汚染問題も伴いません。Googleは長年、再生可能エネルギーの最大の企業購入者の一つであり、風力と太陽光が新たな電力源として最も急速に成長するのを支援してきました。
しかし、今回の発表では、Googleがこの点を強調していないことが指摘されています。これは、トランプ政権下で再生可能エネルギーに対する政治的な風向きが変化していることを反映している可能性があります。共和党は、太陽光や風力プロジェクトへの税制優遇措置を廃止する一方で、CCSへの優遇措置は維持しています。
結論:AI時代のGoogleのエネルギー課題
AIの野心拡大に伴い、Googleのデータセンターからの電力需要は増加の一途をたどっており、それに伴いGoogleの炭素排出量も増加しています。今回のCCSプロジェクトへの投資は、増大するエネルギー需要と気候変動対策という二つの課題に直面するGoogleの、複雑なエネルギー戦略の一端を示しています。この選択が、真に持続可能な未来への道を開くのか、それとも化石燃料時代を長引かせるだけなのか、今後の動向が注目されます。
元記事: https://www.theverge.com/news/805682/google-data-center-gas-power-plant-carbon-capture
