『ニュースタワー』:ゲームが問いかける、まっとうなジャーナリズム経営の厳しさ

1930年代の新聞経営シムが暴くジャーナリズムの現実

先日Steamでリリースされた経営シミュレーションゲーム『News Tower』が、ジャーナリズムの難しさをリアルに描いていると注目を集めています。舞台は1930年代のニューヨーク。プレイヤーは経営不振の新聞社を引き継ぎ、ニューヨーク随一のニュース発信地へと成長させることを目指します。しかし、単なる経営手腕だけでなく、倫理的な判断や予期せぬコスト、外部からの圧力といった、現代のジャーナリズムにも通じる厳しい現実が待ち受けています。

従業員の幸福と効率:見過ごされがちな隠れたコスト

ゲームの重要な要素の一つは、従業員の管理です。記者の幸福度や効率は、匂い、騒音、暑さ、そして仕事の目的意識の欠如など、さまざまな要因によって低下します。これらを改善するためには、壁の設置や扇風機の導入だけでなく、植物や時計、装飾的な壁紙といった直接スキルには関係しないアメニティが不可欠であることが示唆されます。これは、単なる設備投資だけでなく、職場環境全体が従業員の生産性に与える影響という、現代の企業経営にも通じる重要な視点を提供しています。

ニュース選択の倫理的ジレンマと外部からの圧力

プレイヤーは、ニュースワイヤーから届く記事をどの記者に割り当てるか、どの地域に需要があるか、他の記事との相乗効果はどうかなど、複数の要素を考慮して判断を下します。しかし、ゲームを進めるにつれて、マフィアや市長といった強力な派閥からの介入が始まります。彼らは現金と引き換えに特定の内容を削除するよう要求したり、融資に有利な条件を提示したりします。プレイヤーは「倫理的なジャーナリスト」であろうとしますが、紙面の存続がかかる状況では、外部からの圧力と資金の誘惑が、判断を大きく揺るがすことになります。これは、メディアが直面する政治的・経済的圧力の生々しい描写と言えるでしょう。

財政の現実:新技術導入の落とし穴

ゲーム内で最も大きな挑戦となるのが、やはり資金繰りです。記者のスキル向上に伴う人件費の増加や、販売部数の増加に伴う紙代の高騰は、たとえ売り上げが伸びても経営を圧迫します。特に象徴的なのは、写真の導入の例です。売上好調の最中、さらなる品質向上を目指してカメラマンを雇ったものの、それだけでは写真が紙面に載らないことが判明します。結果として、現像技師の雇用、暗室の建設、化学処理の専門家、さらには化学物質の匂いが士気に影響するため専用の部屋の確保と、当初の予想をはるかに超える「費用のアバランチ」が発生し、最終的には破産に追い込まれることもあります。これは、IT分野における新技術や機能の導入が、表面的なコストだけでなく、予期せぬインフラ投資や運用コスト、従業員の適応コストを招くことを示唆しており、現代のプロダクト開発における教訓ともなり得ます。

ゲームが示す、良いジャーナリズムの困難さ

『News Tower』は、単なる経営シミュレーションとしてだけでなく、「なぜ質の高いジャーナリズムを見つけることがこれほど難しいのか」という問いに対する答えを提示しています。目先の利益を追えば品質が犠牲になり、倫理を貫けば経営は苦しくなる。このジレンマの中で、いかにバランスを取り、良いジャーナリズムを追求していくか。このゲームは、プレイヤーにその厳しさを身をもって体験させます。ゲームを通じて、メディアの独立性、持続可能性、そして倫理的な意思決定の重要性について深く考えさせられるでしょう。


元記事: https://www.theverge.com/games/830340/news-tower-indie-game-management-sim