「Hamlet TV」が目指す地方自治体の透明化
かつて市議会議員選に出馬したSunil Rajaraman氏の個人的な経験から生まれた「Hamlet TV」は、地方自治体の会議内容を透明化し、市民の政治参加を促す新たなストリーミングチャンネルです。Rajaraman氏は、2022年に市議会議員に立候補した際、市がどのように機能し、どのような決定がなされているのかを理解することが極めて困難であると感じました。彼は「ほとんど意図的に不透明なブラックボックス」と表現する地方政府の現状を変えたいと願いました。
この課題に対し、Rajaraman氏はAIを活用したソリューションを考案。新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、多くの自治体が会議をオンラインで記録・公開していることに着目し、これらの動画を解析する企業「Hamlet」を2022年に設立しました。同社は「数千時間に及ぶ市議会や都市計画委員会の会議動画をAIで処理し、実用的な情報へと変換」します。Rajaraman氏は、動画は議事録よりも優れていると強調します。議事録は個人の解釈に過ぎないのに対し、「動画は嘘をつかない」からです。
AIが会議内容を分析、多様な利用者を支援
当初、Rajaraman氏はHamletをメディア企業として構想していましたが、不動産開発業者や政治行動委員会（PACs）からの問い合わせを受け、そのビジネスモデルに多様な可能性を見出しました。民間企業も地方自治体との連携において、会議内容の詳細な洞察を求めていることに気づいたのです。エンタープライズ顧客に対し、Hamletは議題の追跡、関連トピックが議論された際の通知、長時間の会議動画の要約、そして競合他社の言及を検索できる動画アーカイブへのアクセスといったサービスを提供しています。
市民向けストリーミングチャンネル「Hamlet TV」
そして先日、Rajaraman氏は、一般市民が政府の動向をより深く理解できるようにするため、同社の事業を拡大し、新ストリーミングチャンネル「Hamlet TV」のローンチを発表しました。このチャンネルは、TikTok、YouTube、AppleTV、Instagramといった主要プラットフォームで視聴可能で、市議会、委員会、教育委員会の重要な瞬間を特集します。
Rajaraman氏によると、Hamlet社はすでに政府機関向けに数千時間もの政府会議を処理してきました。15時間以上にも及ぶ休憩なしの会議もあったといいます。その中で、チームは会議中の面白い瞬間を厳選し、ユーモアを通じて人々に米国の民主主義への関心を高めてもらうことを着想しました。彼は、「手続き的な動画を見せても、人々は関心を持たないだろう。しかし、面白いものを見せれば、彼らは見るだろう」と語っています。
これまでに「Hamlet TV」で最も驚くべき瞬間として挙げられたのは、害虫問題について市議会でゴキブリの格好をして発言した人物の映像です。しかし、Rajaraman氏が本当に驚いているのは、そうした面白い出来事ではなく、「これらの会議がいかに重要でありながら、いかに目に見えないままであるか」という点だと言います。彼は今年初め、ツーソン市議会がAmazonの36億ドルのデータセンター建設を却下した事例を挙げ、その決定に至るまでに数ヶ月間の計画があったにもかかわらず、その理由を理解するために動画を視聴した人はごく少数だったと指摘しています。
創業者の背景と今後の展望
Rajaraman氏にとって、ビジネス運営やメディア事業は初めてではありません。彼は過去に分析プラットフォームScriptedを共同設立し、Foundation Capitalで2度起業家インレジデンスを務めました。また、出版物「The Bold Italic」を運営し、Mediumに売却した経験もあります。彼は「Hamlet TV」が収益を上げる事業になるとは考えておらず、人々の民主主義への関与を深めることを目的としています。
これまでに、Hamlet社はSlow Ventures、Crosslink Capital、Bana Capital、Kapor Capitalを含む支援者から約1,000万ドル（約14億円）のベンチャー資金を調達しています。「我々は、この分野における『Bloomberg』になりたい」とRajaraman氏は語ります。今後は、政府関連機関、アドボカシー団体、再生可能エネルギー開発業者との連携も視野に入れています。Rajaraman氏は、「人々が監視しているとき、民主主義はより良く機能する。我々は監視を可能にしようとしているのだ」と締めくくりました。