スクウェア・エニックスの「HD-2D」:進化するレトロとモダンの融合

HD-2Dグラフィックの誕生と成功

近年のビデオゲーム業界では、大規模で高コストなタイトルが類似したビジュアル表現に陥りがちです。しかし、スクウェア・エニックスが「HD-2D」と呼ぶ独自のグラフィック様式は、この流れに一石を投じています。

「HD-2D」は、2018年の『オクトパストラベラー』で初めて採用され、「スーパーファミコン、すなわちピクセルアートの黄金時代からゲームを現代技術で蘇らせたらどうなるか」というアイデアから生まれました。『Octopath Traveler 0』は、このスタイルが2025年までに確立された成功を示しています。

HD-2Dの二つの道筋:オリジナルとリメイク

HD-2Dスタイルが確立された後、スクウェア・エニックスはこの美学を二つの異なる方向性で展開しました。

  • オリジナル作品の「パスティーシュ」: 『オクトパストラベラー』シリーズのように、過去の傑作の要素を凝縮し、新鮮なパッケージとして提供します。
  • 名作のリメイク: 『ライブアライブ』(1994年)や『ドラゴンクエストI・II HD-2Dリメイク』といった、新たな光を当てるべきクラシックゲームを現代に蘇らせます。

当初、HD-2Dは単なる目新しい趣向に過ぎませんでしたが、『トライアングルストラテジー』(2022年)や『ライブアライブ』のリメイクを経て、パブリッシャーのデザイン哲学へと昇華しました。

ノスタルジーと現代性の精妙なバランス

HD-2Dの大きな成功要因は、ノスタルジーと現代性の両立にあります。プロデューサーの早坂将昭氏は、HD-2Dについて「キャラクターやモンスターをピクセルアートで作り、3D背景の上に配置するだけで技術的には成り立つ」と説明しつつも、「色調、エフェクト、カメラアングルに至るまで全てを整え、『しっくりくる雰囲気』をしっかりと作り上げることが重要だ」と述べています。

『オクトパストラベラー0』プロデューサーの鈴木裕人氏も、ピクセルアートには「想像力を掻き立てる余地があり、その可能性に限界はない」と語り、プレイヤーの想像力を刺激する力があることを強調しています。

批評家からの評価も高く、Polygon誌のOli Welsh氏は『ライブアライブ』のHD-2Dについて「純粋なレトロ感を越え、時代を超越した何かを生み出す豪華なスタイル」と評し、「90年代のクラシックなビデオゲーム美学を現代に拡張し、元の個性を忠実に保ちながら深みと豊かさを与えている」と絶賛しています。

広がる表現の可能性と多様性

初期の『オクトパストラベラー』や『トライアングルストラテジー』が比較的抑えられた色調やジオラマのような演出に終始していたのに対し、HD-2Dは進化を遂げています。

特に『ドラゴンクエスト』シリーズのリメイクでは、より鮮やかな色彩が用いられ、「HD」側面が強調されています。鳥山明氏による特徴的なキャラクターデザインと相まって、ピクセルアートの限界を超えた豪華絢爛な背景が展開され、その表現の幅を広げています。

早坂氏は「HD-2Dという傘の下でも、これまでにリリースされた5つのタイトルはどれも全く同じではない」と指摘し、「色調からピクセルの粗さの表現に至るまで、変化を加える方法は無数にあり、成長の余地が十分にある表現方法だ」と語っています。

時代に左右されない美学への探求

HD-2Dが「時代を超越する」と評されることが多いのは、ゲーム開発における根源的な問い、つまり「芸術的表現と技術的進歩の間の葛藤」に対するスクウェア・エニックスの答えだからです。

技術の進歩は時として、過去のゲームのビジュアルを古く見せたり、オリジナルの意図を損なったりすることがあります。HD-2Dは、「時間の経過に耐えうる完璧なゲームのバージョンを作り出す方法があるのではないか」という開発者の願望を具現化したものです。それは、過去を尊重しつつ、未来にも恥じない、現代の感覚にも訴えかける新しいグラフィック表現なのです。


元記事: https://www.theverge.com/entertainment/840080/square-enix-hd2d-games-octopath-dragon-quest