遊休油井がクリーン水素生産の源に
米国には最大300万もの放棄された油田やガス井が存在し、その多くには未採掘の石油が残されているものの、その採取は経済的に見合わないとされてきました。しかし、ヒューストンを拠点とするスタートアップ、Eclipse Energyがこの状況を一変させ、放置された油井を新たな水素生産工場へと変貌させる可能性を秘めた革新的な技術を発表しました。同社CEOのプラブ・セコン氏は「膨大な量の石油が残されている」と語っています。
微生物が石油から水素を生成するメカニズム
Eclipse Energyの技術は、従来のようなポンプによる揚水や、石油を強制的に地表に押し上げるための注入とは一線を画します。彼らは、油井に特殊な微生物を送り込み、これらの微生物が石油分子を分解することで水素を生成するという画期的なアプローチを採用しています。セコン氏によると「水素ははるかに流れやすい」ため、粘性の高い石油を扱うよりも容易に抽出が可能になります。この技術は、昨年夏にカリフォルニア州サンホアキン盆地の油田でその有効性が実証されました。
世界展開と主要パートナーシップ
この画期的な技術は、世界展開に向けて大きな一歩を踏み出します。Eclipse Energyは、大手油田サービス会社であるWeatherford Internationalとの提携を発表しました。セコン氏はWeatherfordとの関係を「彼らは我々のチームの延長であり、運用部門となるだろう」と述べ、最初のプロジェクトは来年1月に開始される予定です。これは、CemvitaからスピンアウトしたEclipse Energy（旧称：Gold H2）が数年にわたり開発してきた技術の集大成となります。
低炭素水素生産と環境への影響
微生物が石油を消費する過程で、水素と二酸化炭素が生成され、これらが地表へと運ばれます。同社によれば、生成された二酸化炭素の約半分は貯留層内に自然に留まり、残りの半分は特殊な装置で回収・隔離されるか、再利用される可能性があります。Eclipse Energyの目標は、1キログラムあたり約50セントという競争力のある価格で低炭素水素を生産することです。これは、より多くの二酸化炭素を排出する天然ガスからの水素製造と同等のコストであり、生成された水素は石油化学プラントやエネルギー源として利用できる見込みです。セコン氏は、この技術が「負債をクリーンエネルギー資産に変える」と、その環境的・経済的意義を強調しています。