Spotifyのトップ交代劇、アーティストの反発は収まらず
SpotifyのCEO兼創設者であるダニエル・エク氏がCEO職を辞任すると発表しましたが、これは同プラットフォームをボイコットしているアーティストたちの姿勢に何ら変化をもたらしていません。エク氏は、自身の投資会社Prima Materiaを通じてドイツの防衛企業Helsingに資金提供していることが、多くのアーティストにとって「最後の藁」となり、Hotline TNT、Massive Attack、Godspeed You! Black Emperor、Deerhoofといった著名なアーティストたちがSpotifyから楽曲を引き上げていました。
エク氏もSpotifyも、この決定が彼の「戦時への転換」に対する高まる怒りによるものだとは示唆していませんが、もし会社がCEO交代によってアーティストの離反を食い止めようと期待していたのであれば、それは誤算だったようです。Hotline TNTのWill Anderson氏は、「この特定のストリーミングプラットフォームに対する我々の問題は、一匹の爬虫類をはるかに超えている」と述べています。
変わらぬ影響力:ダニエル・エク氏の新たな役割
アーティストたちが態度を変えない理由の一つは、エク氏の役職変更が単なる「見せかけ」に過ぎないと考えているからです。エク氏は引き続き執行会長として留まり、新しく共同CEOに任命されたグスタフ・ソーダーストロム氏とアレックス・ノーストロム氏はエク氏に報告する体制が維持されます。エク氏自身も「私は、会長という肩書きを持つ米国の一部の同僚よりも、より実践的に関与するだろう」と発言しており、その影響力は依然として大きいことを示唆しています。
7月に楽曲を引き上げたJeremy Leaird-Koch氏(Jeremy Blake名義で活動)は、この役員人事のシャッフルは「何も変えない」と断言しています。また、Kalahari Oyster CultのレーベルマネージャーであるColin Volvert氏も、「我々は動向に注目しているが、現状では単なる見せかけの経営戦略に過ぎない」と述べ、「エク氏がより物議を醸すような事業を追求する自由を得た可能性が高い」と懸念を示しています。
アーティストの「セキュリティ」を脅かす根本問題:低報酬と倫理的懸念
アーティストたちがSpotifyに抱く問題は、エク氏個人の行動だけにとどまりません。彼らが最も懸念しているのは、以下の点です。
- 低すぎるロイヤリティ:Spotifyの1ストリームあたりの支払いは、業界最低水準の0.003ドルから0.005ドルと推定されています。年間1,000ストリーム未満のアーティストには、報酬が一切支払われません。
- オーディオブックのバンドルによるロイヤリティ抑制:2024年にPremiumプランにオーディオブックが追加されたことで、サブスクリプション収益を分配するコンテンツの総時間が増加し、結果としてロイヤリティ支払いが1億5000万ドル減少しました。これは、アーティストの経済的セキュリティを直接的に脅かす行為と見なされています。
- 倫理的投資への反発:エク氏が「AI兵器技術」に資金提供していることに対し、DeerhoofのボーカリストであるSatomi Matsuzaki氏は、「Spotifyがすべてのアーティストを尊重し、公正な金額を支払わない限り、我々は戻らない。彼らはAI詐欺で金儲けをするのをやめるべきだ」と強く訴えています。
政治的圧力と業界の動向
Spotifyのロイヤリティ問題は、欧州議会や米国議会の注目も集めています。2024年6月には、ロイヤリティ率を人為的に抑制するための「裏工作」に対して、超党派による調査要求が出される事態に発展しました。これは、上院の共和党と民主党が「Spotifyは制御不能である」という点で珍しく意見が一致した事例です。
Jeremy Leaird-Koch氏は、「Spotifyは、長年にわたってプラットフォームに導入してきた多くの有害な選択を撤回するために、ヘラクレスのような努力をしなければならないだろう。株主のために利益を生み出すことに縛られている上場企業では、それが起こるとは思えない」と、根本的な変化の難しさを指摘しています。
Spotifyに依存しないアーティストの台頭
一方で、Spotifyなしでも成功を収めるアーティストも現れています。Joanna NewsomはSpotifyに楽曲を提供せず、「悪役の陰謀団」と呼んでいます。また、Cindy Leeは2024年のPitchfork年間ベストアルバムで1位を獲得した『Diamond Jubilee』をストリーミングプラットフォームで公開していません。
Xiu XiuのJamie Stewart氏は、「我々がSpotifyから離れても、彼らにとって経済的な影響はほとんどないだろう。それは我々の良心の問題だ」と語り、アーティストの倫理的選択の重要性を強調しています。しかし、Hotline TNTのAnderson氏は、アーティストの行動が変化をもたらす可能性について「Spotifyは動揺しているようだ。そうあるべきだ」と、より楽観的な見方を示しています。
結論:真の変革が求められるSpotify
ダニエル・エク氏のCEO辞任は、Spotifyが直面する倫理的および経済的な「セキュリティ」問題に対する根本的な解決策とは見なされていません。アーティストたちは、単なる役職変更ではなく、公正な報酬体系、透明性の高い運営、そして倫理的な事業活動を求めています。Spotifyがアーティストの信頼を取り戻し、持続可能な音楽エコシステムを構築するためには、抜本的な改革が不可欠であると言えるでしょう。
