イランの史上最長インターネット遮断:抑圧と抵抗におけるテクノロジーの役割

イランのインターネット遮断:抗議と情報統制の最前線

2026年1月初旬にイランで大規模な抗議活動が勃発して以来、イラン政府はインターネットを遮断し、同国史上最長となる遮断期間を記録しました。このインターネット遮断は、抗議活動の拡大阻止を狙ったものですが、情報の拡散を遅らせたものの、運動を完全に止めることはできませんでした。遮断の裏では、3,000人から30,000人の死者が出たとされる空前の国家暴力が続いています。本記事では、WITNESSのテクノロジー脅威・機会プログラム准ディレクターであるMahsa Alimardani氏の専門的な見解を基に、イランにおけるインターネットの現状と、テクノロジーが抑圧と抵抗の両面で果たす役割を探ります。

不安定な接続状況とVPNの重要性

1月24日の週末以降、一部の接続が再開されたものの、イラン国内のインターネット接続は依然として非常に不安定です。Cloudflareのネットワークデータによると、接続率は30〜40%に留まり、一時的な接続回復が事態の正常化を意味するものではないとAlimardani氏は指摘します。長年の検閲と遮断により、イラン国民は高いテックリテラシーを持ち、複数のVPNを使いこなすことが日常となっています。しかし、政府はVPNの無効化に多大な労力を費やしており、「いたちごっこ」が続いています。

政府がインターネットを恐れる理由:歴史から学ぶ

イラン政府がインターネットアクセスを恐れる背景には、情報統制の歴史があります。1988年の政治犯大量虐殺は、インターネットが存在しない時代にメディアが厳しく統制されていたため、その記憶が世代間で十分に共有されませんでした。しかし、インターネット時代においては、市民がスマートデバイスを用いて「犯罪を記録し、証言する」ことが可能になり、これが政権にとって大きな脅威となっています。2019年の1週間にわたるインターネット遮断下では、推定1,500人が虐殺されており、遮断は常に国家暴力の前兆であると認識されています。

検閲との攻防:進化する国民のデジタルライフ

イランでは2017〜2018年頃にはメッセージアプリTelegramが「イランのインターネット」と呼ばれるほど普及していましたが、抗議活動の組織化に利用されたため2018年に遮断されました。その後、InstagramやWhatsAppが主要なプラットフォームとなりましたが、2022年の「女性・生命・自由運動」中にこれらも遮断されました。このような状況下で、イラン国民は常に新しい通信手段を模索し、VPNなどの回避ツールを駆使して情報にアクセスしています。

テクノロジーが助長する抑圧:偽情報とAIの悪用

政府は、インターネット遮断や物理的強制に加え、偽情報の拡散によって情報空間を操作しています。特に、近年ではAI技術の進展がこの問題に拍車をかけています。AIによる画像・動画編集が普及する中で、情報の真偽を見分けることはますます困難になっています。例えば、「天安門事件の戦車男」を彷彿とさせる抗議者の写真がAIのアーティファクトを含んでいたため、政権側はこれを「シオニストによるAIスロップ(質の悪いAI生成コンテンツ)」と攻撃し、真正な情報すらも疑わせる「Liar’s Dividend(嘘つきの配当)」を狙いました。

イラン・イスラエル戦争と生成AIコンテンツ

2025年6月のイラン・イスラエル戦争では、Googleの「Veo 3」のような写実的な生成AIコンテンツが容易に作成できるようになったことで、両国から大量のAI生成コンテンツが情報戦に投入されました。特に、イスラエルがエビン刑務所を爆撃したとするディープフェイク動画は瞬く間に拡散され、多くの研究者がこれが操作された映像であることを確認するまで、主流メディアでさえこれを転載しました。このような事例は、AIが情報戦の強力なツールとして悪用され、国際社会の認識を歪める可能性を示しています。

希望の光:Starlinkの登場と課題

インターネット遮断が続く中で、Starlink(スターリンク)はイランから外部へ情報を伝える唯一の窓となりました。約56,000台以上のStarlink端末がイラン国内に存在すると推測されており、多くの人々がこれを通じて情報を共有し、人権侵害の証拠を収集しています。しかし、Starlink端末は密輸に頼っており、価格が高騰しているため、アクセスできるのは特権階級に限られるという課題も抱えています。

接続性の再考:Direct 2 Cellキャンペーン

Alimardani氏は、衛星インターネットが危機下の地域における接続性を再構築する可能性を強調しています。特に、特権階級ではない人々にも衛星インターネットを届けるため、2020年以降に製造されたスマートフォンで利用可能な「Direct 2 Cell」技術の推進を呼びかけています。これは、インターネットアクセスを「国家のインフラ」ではなく「普遍的な権利」として捉え直し、人道危機や大規模な虐殺が発生している地域における情報断絶を防ぐための重要な取り組みです。


元記事: https://www.theverge.com/policy/871848/iran-blackout-internet-mahsa-alimardani