TiVo、法廷では勝利するもテレビ戦争に敗れる:特許防衛が招いたイノベーションの停滞

はじめに:かつての巨人TiVoの栄光と転落

かつて「TiVoする」という言葉が動詞になるほど、デジタルビデオレコーダー(DVR)の代名詞として一世を風靡したTiVo。しかし、同社は法廷での勝利を重ねる一方で、テレビ市場の激変に対応できず、最終的にはその輝きを失いました。これは、知的財産(IP)保護の重要性と、変化する市場への適応という、企業が直面するセキュリティ上の課題を浮き彫りにしています。

「Time Warp」特許と終わりのない法廷闘争

TiVoの成功の基盤となったのは、ライブTVの一時停止や巻き戻し、録画中の別番組視聴といった画期的な機能を実現した「Time Warp」特許(米国特許6,233,389)でした。同社は2000年代から2010年代初頭にかけて、この特許を巡り、EchoStar、Motorola、Time Warner Cable、AT&T、Dish Network、Cisco、Verizonといった大手企業を相手に数々の高額訴訟を繰り広げ、そのほとんどで勝利を収めました。米国特許庁も2度にわたり特許の再審査を行い、その有効性を再確認しています。

イノベーションの機会損失:ストリーミング時代の到来

しかし、TiVoが法廷闘争に明け暮れる間、市場は急速に変化していました。2007年にはNetflixがストリーミングサービスを開始し、HuluやRoku、そしてChromecastといったデバイスが次々と登場。スマートTVの普及も始まり、消費者のテレビ視聴体験は大きく変貌を遂げました。TiVoはNetflixやHuluへの対応を進めたものの、常に後手に回り、革新的なハードウェアやサービス開発への投資が疎かになったことは否めません。

かつては高機能で人気を博したTiVoのDVRも、ケーブル会社が提供する「十分な」DVRや、安価なストリーミングデバイスの台頭により、高額な本体価格と月額料金が足かせとなり、その魅力を失っていきました。2010年にピークを迎えた米国の有料テレビ契約者数は、2025年には半減しており、「コードカッティング」の波はTiVoのビジネスモデルの根幹を揺るがしました。

特許ライセンス企業への変貌、そしてハードウェア事業からの撤退

2010年代に入ると、TiVoの主な収益源は特許技術のライセンス供与へとシフトしました。そして、2020年には特許ライセンス企業Xperiに買収され、そのプレスリリースでは「業界最大かつ最も多様な知的財産(IP)ライセンスプラットフォームの一つ」であることが強調されました。これは、TiVoがもはやイノベーションを牽引する企業ではなく、IPを「保有」する企業へと変貌したことを示しています。

2019年に発売された「TiVo Edge」が最後のハードウェアとなり、2025年9月30日には残りの在庫も完売し、TiVoはハードウェア事業から完全に撤退しました。今後はスマートTV OSに注力するとしていますが、これは市場の変化から15年遅れた戦略と言わざるを得ません。

セキュリティニュースとしての教訓:IP保護と市場適応のバランス

TiVoの事例は、企業が直面する「知的財産保護」と「市場の進化への適応」という二つのセキュリティ課題のバランスの難しさを示しています。特許は企業の競争優位性を守る重要な資産ですが、それに固執し、イノベーションへの投資やビジネスモデルの転換を怠れば、市場からの淘汰という最大のセキュリティリスクに直面します。

TiVoは法廷で勝利を収めましたが、結果としてテレビ戦争には敗れました。これは、技術革新が加速する現代において、企業が常に市場の動向を監視し、柔軟な戦略と迅速な適応能力を持つことの重要性を強く示唆する教訓と言えるでしょう。


元記事: https://www.theverge.com/tech/802254/tivo-time-warp-patent-courtoom-battles-lost-tv-war