はじめに
2025年10月20日、ノースカロライナ大学チャペルヒル校（UNC）のリー・ロバーツ総長は、AIとフットボールチームのビル・ベリチック氏という二つの大きな賭けに挑んでいます。元金融業界のベテランであるロバーツ氏は、大学の未来をAIに託し、その変革を推進しています。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。本記事では、ロバーツ総長の大胆な戦略と、それに伴う課題、そして大学の未来における「セキュリティ」の側面を深く掘り下げます。
AI戦略：教育の未来への大胆な賭け
ロバーツ総長は、学生たちがAIを活用する現実世界で活躍できるよう、教育カリキュラムの変革を強く推進しています。彼は「卒業後にAIを使えば問題になると言う人はいないだろう」と述べ、AIを教育に統合することの重要性を強調しています。しかし、大学内ではAIに対する意見が二分されており、一部の教員は積極的にAIを取り入れる一方で、チャットボットを「アナボリックステロイド」のように不正行為と見なす教員も存在します。
この文化的な対立を乗り越えるため、ロバーツ総長は「インセンティブに基づくプログラム」を導入し、学内のAI推進を加速させています。その一環として、ジェフリー・バーゼル氏をAI担当副学長に任命しました。バーゼル氏は技術と人文科学の両方に精通しており、教員全体のAIリテラシー向上に貢献することが期待されています。
さらに、UNCはデータサイエンス・社会学部と情報・図書館科学部を統合し、AIを中心とした新たな学部を設立するという画期的な発表を行いました。この動きは、UNCがAIを大学の「北極星」と位置づける明確な証拠です。しかし、この統合は図書館科学部の学生たちから学位の将来に関する懸念を引き起こし、一部の教員からは「ロバーツ総長の自己満足のため」との批判も上がっています。ロバーツ総長は、この統合が協調的かつ先見的なものであり、コスト削減が主目的ではないと強調しています。このAIへの大規模な投資は、大学の学術的誠実性と将来の競争力を確保するための重要な「セキュリティ」対策と見なすことができます。
財政的課題とリーダーシップ
UNCは最近、連邦政府からの助成金118件、総額3,800万ドルを失うという財政的打撃を受けました。これは、連邦政府による広範な助成金打ち切りの一環です。ロバーツ総長はこの損失が研究者にとって「人生の仕事」を失うことにつながると認めつつも、大学全体の研究資金の「平均年間変動」の範囲内であると説明し、冷静な姿勢を保っています。彼はワシントンの政策立案者に対し、連邦研究資金の重要性を訴える活動も行っています。
ロバーツ総長自身の就任も物議を醸しました。彼は30年間金融業界で働き、学術行政の経験がないまま総長に就任したため、「戴冠式」と批判され、900人以上の署名が集まった請願書も提出されました。しかし、ロバーツ総長は、どのような経歴の人物でも総長職には学習曲線があると述べ、自身のビジネス経験が大学運営に役立つと主張しています。彼のリーダーシップは、大学の財政的安定性と運営の効率性という側面で、ある種の「セキュリティ」を提供しようとしていると言えるでしょう。
ビル・ベリチック氏の招聘とスポーツ戦略
AIへの投資と並行して、UNCはフットボールチームのヘッドコーチとしてビル・ベリチック氏を年間1,000万ドル、5年契約で招聘しました。しかし、チームは現在2勝4敗と苦戦しており、「大惨事」と報じられています。多くの報道が、ベリチック氏のNFLでの指導スタイルが大学生には適応できていないと指摘しています。
ロバーツ総長は、ベリチック氏の招聘を擁護し、フットボールが他の28のスポーツの収益源となっていることを強調しています。彼は「もし他の誰かを雇っていたら、『ビル・ベリチックを雇えたのに』と言われただろう」と述べ、この投資が大学のスポーツプログラム全体の「セキュリティ」に不可欠であると考えています。しかし、チームの不振は大学の評判に影響を与えかねず、この高額な投資が正当化されるかどうかが問われています。
結論：変革への挑戦
ロバーツ総長は、連邦資金の削減、出生率の低下、大学の価値への疑問、そしてAIによる教育モデルの変革といった、高等教育が直面する多岐にわたる課題を認識しています。しかし、彼はこれらの課題を危機ではなく「機会」と捉えています。彼は、AIの分野では「比較的迅速に、そして学際的に協力する必要がある」と述べ、歴史的に大学が苦手としてきたこの二つの要素が成功の鍵であると強調しています。
ロバーツ総長のゲームプランが成功するかどうかはまだ分かりませんが、彼が伝統を守るよりも、迅速に行動し、変革を起こすことを選んだのは明らかです。彼は「ノースカロライナ大学をアメリカでナンバーワンの公立大学にする」という野心的なビジョンを掲げ、その言葉はまるでシリコンバレーのCEOのようです。彼のリーダーシップは、変化の激しい時代における大学の「存在意義のセキュリティ」を問い、その未来を形作ろうとしています。
元記事: https://techcrunch.com/2025/10/20/the-man-betting-everything-on-ai-and-bill-belichick/