AIが医療診断を変革:RADiCAITがPETスキャンをより身近に
オックスフォード大学発のスタートアップ、RADiCAITが、AIを活用して診断用画像診断をより手頃でアクセスしやすいものにする革新的な技術を発表しました。同社は、TechCrunch Disrupt 2025のStartup Battlefieldでトップ20ファイナリストに選出され、その画期的なアプローチが注目を集めています。
PETスキャンの課題とRADiCAITの革新
PETスキャンはがんの検出と追跡に不可欠ですが、そのプロセスは患者にとって大きな負担です。検査前の長時間の絶食、放射性物質の注入、そして放射性物質の半減期が短いため、サイクロトロン(小型核機械)の近くで製造されたトレーサーを数時間以内に使用する必要があり、地方でのアクセスが困難という課題があります。これにより、PETスキャナーは主要都市に集中し、医療格差を生んでいます。
RADiCAITは、この問題に対し、AIを用いてCTスキャンをPETスキャンに変換するという画期的なソリューションを提案しています。CTスキャンはPETスキャンよりもはるかにアクセスしやすく、費用も安価です。RADiCAITのCEOであるショーン・ウォルシュ氏は、「最も制約が多く、複雑で費用のかかる医療画像診断ソリューションを、最もアクセスしやすく、シンプルで手頃なCTスキャンに置き換えた」と述べています。
AI技術の核心:CTからPETへの変換
RADiCAITの「秘密兵器」は、2021年にオックスフォード大学のリージェント・リー氏(共同創設者兼最高医療情報責任者)が率いるチームによって開発された、生成型深層ニューラルネットワークです。この基盤モデルは、CTスキャンとPETスキャンを比較し、それらの関係性におけるパターンをマッピングすることで学習します。RADiCAITの最高技術責任者であるシナ・シャハンデ氏は、この技術を「解剖学的構造を生理学的機能に変換することで、異なる物理現象を結びつける」ものと説明しています。
このAIモデルは、特定の組織や異常など、スキャンの特定の機能や側面に特に注意を払うように指示され、多くの異なる例で学習を繰り返すことで、臨床的に重要なパターンを識別できるようになります。最終的な画像は、複数のモデルが連携して作成され、Google DeepMindのAlphaFoldがタンパク質構造予測を革新したのと同様のアプローチが取られています。
ウォルシュ氏は、RADiCAITの合成PET画像が、実際の化学PETスキャンと統計的に類似していることを数学的に証明できると主張しており、臨床試験でもその品質が確認されているとのことです。
臨床試験と将来展望
RADiCAITは、放射性リガンド療法のような特定の治療環境におけるPETスキャンの必要性を置き換えるものではないとしながらも、診断、病期分類、モニタリングの目的においては、その技術がPETスキャンを不要にする可能性を秘めていると見ています。同社はすでに、マサチューセッツ総合病院ブリガムやUCSFヘルスなどの主要な医療システムと協力し、肺がん検査の臨床パイロットを開始しています。
現在、RADiCAITはFDAの臨床試験を進めるために500万ドルのシード資金調達を行っており、承認後には商業パイロットを実施し、製品の商業的実現可能性を実証する予定です。さらに、大腸がんやリンパ腫の症例にも同様のプロセスを適用することを目指しています。
シャハンデ氏は、RADiCAITのAIアプローチが「広く適用可能」であり、「放射線医学全体での拡張を模索している」と述べ、材料科学から生物学、化学、物理学に至るまで、自然界の隠れた関係性を学習できるあらゆる分野で同様のイノベーションが期待できると語っています。
TechCrunch Disrupt 2025での注目
RADiCAITは、TechCrunch Disrupt 2025のStartup Battlefieldでトップ20ファイナリストに選ばれており、その革新的な技術はイベントで大きな注目を集めることでしょう。医療診断の未来を形作る可能性を秘めた同社の動向に、今後も目が離せません。
