はじめに:気候変動開示を巡る新たな法的攻防
石油・ガス大手エクソンモービルが、カリフォルニア州が制定した気候変動汚染開示法が言論の自由を侵害するとして、同州を提訴しました。この訴訟は、企業が温室効果ガス排出量や気候変動による財務リスクをどの程度開示すべきかという、情報透明性を巡る重要な法的争点となっています。
カリフォルニア州の厳格な開示基準
カリフォルニア州は、企業に対する気候変動関連の開示基準を強化するため、2つの画期的な法律を可決しました。
- SB 253(気候変動排出量開示法):年間収益10億ドル以上の企業に対し、国際的に認められた温室効果ガスプロトコルに基づき、排出量(スコープ1、2、3)の開示を義務付けています。特に、サプライチェーン、電力使用、製品の消費者使用から生じる「間接排出量」の完全な開示を2027年までに求めています。
- SB 261(気候関連財務リスク開示法):年間収益5億ドル以上の企業に対し、沿岸洪水や異常気象が事業に与える影響など、気候変動に起因する財務リスクを2026年1月までに開示することを義務付けています。
これらの法律は、連邦政府が同様の規則を弱体化させる動きを見せる中で、カリフォルニア州が企業の説明責任を追求する姿勢を示しています。
エクソンモービルの主張:言論の自由と「憶測」の強制
エクソンモービルは、これらの法律が憲法修正第1条に違反すると主張しています。同社は、カリフォルニア州が「気候変動の独自の責任を負うと信じる」大企業を「困惑させる」ことを目的としていると訴えています。
- 排出量報告の強制:同社は、温室効果ガスプロトコルの方法論に異議を唱え、州が「根本的に同意しない用語」で排出量を記述することを強制していると主張しています。
- 間接排出量の「二重計上」:特に、間接排出量の開示義務について、自動車の排気ガスなど、車両所有者も排出量を報告する可能性があるため、「二重計上」につながると反論しています。
- 財務リスク開示の「憶測」:SB 261による財務リスク開示については、「未知の将来の展開に関する詳細な憶測」を企業に強いるものであり、「憶測的」であると批判しています。
広がる法的紛争と透明性の重要性
この訴訟は、エクソンモービルが直面している一連の法的問題の一部です。同社は昨年、カリフォルニア州からプラスチック汚染を巡る訴訟を起こされており、今年1月にはカリフォルニア州司法長官を名誉毀損で提訴しています。また、2023年には、カリフォルニア州が複数の石油・ガス企業を相手取り、気候変動への「欺瞞的かつ不法な行為」を理由に訴訟を提起しています。
過去の調査では、エクソンモービルの科学者たちが気候変動を正確に予測していたにもかかわらず、同社が公には問題を軽視していたことが示されています。今回の訴訟で同社は「気候変動に伴う非常に現実的なリスクを理解し、それらのリスクに対処するための継続的な努力を支持する」と述べていますが、カリフォルニア州の法律が「根本的に同意しない用語」で開示を強制していると主張しています。
カリフォルニア州司法省の広報担当者クリスティン・リー氏は、「これらの法律は透明性に関するものです。エクソンモービルは国民を闇の中に置き続けたいのかもしれませんが、私たちは国民がこれらの重要な事実にアクセスできるように、法廷で精力的に訴訟を進める準備ができています」と述べ、企業の情報開示の重要性を強調しています。
今後の展望
この訴訟は、企業が気候変動に関する情報をどのように収集、報告、開示すべきかという点で、企業ガバナンスと情報セキュリティの観点からも重要な意味を持ちます。判決は、他の州や連邦政府の気候変動関連規制、さらには企業のESG(環境・社会・ガバナンス)報告の将来に大きな影響を与える可能性があります。情報開示の正確性と透明性が、今後も主要な争点となるでしょう。
元記事: https://www.theverge.com/news/807357/exxon-lawsuit-california-greenhouse-gas-climate-reporting-laws
