CZ恩赦の衝撃と背景
ドナルド・トランプ大統領による恩赦は、前週、元下院議員ジョージ・サントスと暗号資産取引所バイナンスの元CEOであるチャンポン・ジャオ(CZ)に与えられました。特にCZへの恩赦は、彼が金融制裁違反とマネーロンダリングの罪で有罪判決を受け、5000万ドルの罰金と4ヶ月の服役を終えたばかりであることを考えると、極めて異例の措置と言えます。この恩赦は、ホワイトハウスの東棟が破壊されたというニュースに隠れてしまいましたが、その背後にある政治とテック業界の力学は、セキュリティニュースとして見過ごすことはできません。
テック業界と暗号資産企業の政治献金
トランプ政権下では、テック企業が「National State Ballroom Fund」への寄付を通じて、政権への影響力を行使しようとしていることが明らかになっています。Meta、Apple、Amazon、Googleの親会社Alphabet、Microsoft、Palantir、HPといった大手テック企業に加え、T-Mobileのような通信会社も名を連ねています。さらに、暗号資産業界からもRipple、Coinbase、Tether、そしてWinklevoss兄弟やPaxos共同創設者Charles Cascarillaといった主要なプレイヤーが多額の寄付を行っています。
これらの献金は、伝統的なテック企業がトランプ政権による規制強化を回避しようとする一方で、暗号資産企業は規制の枠組みが形成されつつある中で、自らに有利な法律を「書き換える」機会を狙っているという、異なる動機に基づいています。
CZ恩赦がもたらす影響
CZは有罪判決後、バイナンスのCEOを辞任し、3年間バイナンスとの取引を禁じられていました。しかし、今回の恩赦は、これらの条件を解除し、彼が再びバイナンスの経営に関与する道を開く可能性があります。金融業界において、有罪判決を受けた人物がアメリカの金融システムと関わる上での障害が取り除かれることは、暗号資産の主流化を目指す上で極めて重要な意味を持ちます。アメリカの法律は、ドルが関わる金融取引においては世界中で適用されるため、CZがアメリカの金融システムと円滑に連携できることは、バイナンスひいては暗号資産市場全体に大きな影響を与えるでしょう。
トランプ家と暗号資産業界の結びつき
トランプ家は暗号資産事業に深く関与しており、バイナンスはかつてトランプ家の取引プラットフォームを管理していました。CZへの恩赦は、トランプ家が暗号資産業界で信頼性と影響力を得る上で有利に働くと見られています。CZは暗号資産コミュニティの「柱」と見なされており、彼の支持はトランプ家の暗号資産ベンチャーに正当性を与えることになります。また、バイナンスがドナルド・トランプ・ジュニアの友人であるロビイスト、チャールズ・マクダウェルを雇っていたことも、この関係性の深さを示唆しています。
「賄賂」の曖昧な定義と政治的影響力
ワシントンでは「賄賂」の定義が狭く、献金やロビー活動を通じて政治的影響力を行使することが合法とされています。これは、資金力のある企業や個人が、必ずしも違法ではない方法で、法律や規制の形成に大きな影響を与えることを可能にします。今回のCZへの恩赦やテック業界からの献金は、政治と金融、特に暗号資産という新しい領域における「影響力」の限界がどこにあるのかを改めて問いかけるものです。社会がこの現状を容認している限り、資金力のある者が法律を「購入」できるという構造は変わらないでしょう。
元記事: https://www.theverge.com/column/808369/changpeng-zhao-binance-pardon-trump
