Apple TVの戦略転換:プレステージから大衆へ
Appleのストリーミングサービス「Apple TV」が、その戦略を大きく転換しようとしています。これまで「プレステージ」と「質の高さ」を重視し、アカデミー賞受賞作『CODA』や高評価のSF作品で知られていましたが、今後はより広範な視聴者層の獲得を目指す方針を鮮明にしています。
これまでの道のり:独自路線と賞賛
2019年のサービス開始以来、Apple TVはNetflixやDisney+といった競合とは一線を画し、既存作品のライセンス獲得ではなく、オリジナルの高品質な番組制作に注力してきました。その結果、SF大作『ファウンデーション』や謎に満ちた『セヴェランス』など、批評家から絶賛される作品を多数生み出し、映画ではマーティン・スコセッシなどの著名監督の作品も提供。特に『テッド・ラッソ』の成功は、主流市場での可能性を示唆しました。
新たな動き:バンドル、スポーツ、そして価格改定
最近の動きは、Appleの新たな方向性を強く示しています。まず、サービス名を「Apple TV Plus」から「Apple TV」へと簡素化し、新しいイントロサウンドと映像を導入。「より活気ある新しいアイデンティティ」をアピールしています。
- Peacockとのバンドル:これまで不足していた幅広いコンテンツを補完するため、Peacockとのバンドルサービスを開始。異なるジャンルの強みを持つパートナーとの連携で、ラインナップを拡充しています。
- F1とMLSの独占放映権:ライブスポーツ配信への参入も目玉です。F1レースの米国独占ストリーミング権を獲得したほか、MLS(メジャーリーグサッカー)の全試合を2026年からは標準サービスに組み込む予定です。これは、NetflixやAmazonがNFLやNHLに投資する中で、ストリーミング業界の新たなフロンティアを示すものです。
- 価格改定:コンテンツ拡充に伴い、8月には月額料金が3ドル値上げされました。
一方で、ジョン・スチュワートの番組終了に見られるような番組内容への干渉や、『The Savant』のような作品の配信延期は、Appleが「論争を避ける」姿勢を維持している可能性を示唆しています。
今後の展望:バランスと挑戦
これらの個別の動きは、Apple TVが単なる「プレステージ重視のキュレーションサービス」から、「より大きなオーディエンスにアピールするサービス」へと進化しようとしていることを示しています。ティム・クックCEOがエミー賞を掲げる姿からもわかるように、Appleは今後も「質の高さ」というメッセージを維持しつつ、徐々に大衆受けするコンテンツやスポーツ配信を増やしていくでしょう。
Netflixがすべての視聴者層にアピールする「なんでもあり」戦略で成功を収める中、Apple TVは「プレステージ」と「大衆市場」という二つの要素をどのように両立させるかが問われます。当面、広告導入の計画はないものの、SF作品への継続的な注力や、Apple TVデバイス自体のリブランディングの噂もあり、その動向は引き続き注目されます。
元記事: https://www.theverge.com/column/825282/apple-tv-streaming-grow-audience
