「これは間違っていた」:iRobot創業者コリン・アングル、FTCと幻となったAmazon買収について語る

iRobotの破産とAmazon買収破談

ルンバで知られるロボティクス企業iRobotが、12月20日(金)に連邦破産法第11条の適用を申請し、倒産した。これは、Amazonによる17億ドル規模の買収計画が、米連邦取引委員会(FTC)と欧州規制当局による18ヶ月にわたる調査の末に破談となったことを受けてのことだ。創業者のコリン・アングル氏は、この買収破談は「回避可能な」規制当局の反対によるものだと語っている。

FTCの判断に対するコリン・アングルの見解

アングル氏は、規制当局が買収阻止で過ちを犯したと強く批判している。彼は、FTCの目標が消費者の選択肢とイノベーションを保護することであるにもかかわらず、今回の決定は「イノベーションを阻害した」と主張。iRobotとAmazonの結合は、より多くのイノベーションと消費者の選択肢を生み出すことを目的としていたという。

買収交渉が始まった時点でiRobotの市場シェアは低下傾向にあり、新たな競合他社が台頭していたことから、市場は活気に満ちていたと説明。本来であれば数週間で完了するはずの調査が1年半にも及び、その間企業の運営に深刻な影響を与えた。

特にアングル氏を不快にさせたのは、FTCの調査官たちが、買収阻止を「トロフィーのように」オフィスに飾っていたことだ。彼は、イノベーション経済の価値創造の主要な推進力であるM&Aを阻止することを「勝利」と称賛する姿勢に「これは非常に間違っていると感じた」と述べた。

スタートアップとM&Aへの影響

アングル氏は、今回のFTCの決定が起業家精神に「萎縮効果」をもたらすと警鐘を鳴らす。彼は、自身が新たな会社を設立した際も、出口戦略に対する考え方にiRobotでの経験が影響を与えていると明かした。

このような前例は、将来のM&Aに対するリスクを生み出し、投資意欲、企業の評価、そして新規企業設立の速度に悪影響を及ぼすと指摘。起業家は支援を必要としており、M&Aが成功した際には「祝賀されるべき」だと訴えた。FTCはチェック・アンド・バランスの重要な役割を担っているが、そのバランスが崩れると国全体が苦しむことになると結んだ。

iRobotの歴史とRoombaの誕生

iRobotは、共同創業者のロッド・ブルックス教授をはじめとする学術研究者たちが、「ロボットを約束されたのに、どこにロボットがいるんだ?」という思いから設立された。創業当初のミッションは、「クールなものを作り、素晴らしい製品を届け、楽しみ、金を稼ぎ、世界を変えること」だった。

創業からルンバの登場までには12年を要し、その間には火星探査機「マーズ・パスファインダー」への貢献、深海探査ロボットの開発、米軍向け爆発物処理ロボット「パックボット」の製造、福島第一原発事故へのロボット提供など、多岐にわたるプロジェクトを手がけてきた。

ルンバ誕生のきっかけは、アングル氏がチームに1万5000ドルを与え、2週間で「掃除機ロボット」の可能性を探らせたこと。発売当初、メディアの注目を集め、最初の3ヶ月で7万台を販売するヒットを記録した。しかし、翌年には需要予測の誤りから30万台を生産し、サイバーマンデー後には25万台もの在庫を抱え、倒産の危機に瀕したという。

運命を大きく変えたのは、ペプシのデイヴ・シャペル出演CMにルンバが予期せず登場したことだ。これにより、わずか2週間で25万台を売り上げ、さらに「ルンバに乗る猫」の動画が爆発的に拡散され、世界的な成功を収めた。

技術的選択:LiDARとビジョン

iRobotが長らくビジョンベースのナビゲーションに固執し、多くの競合が採用していたLiDAR(ライダー)を導入しなかった理由について、アングル氏はLiDARを「行き止まりの技術」であり、「問題の一部に対する安易な解決策」と評した。彼の戦略的判断は、テスラのように、ビジョンベースのナビゲーションと状況認識システムに全費用を投じることだったという。ビジョン技術は、単なるマッピングだけでなく、「床が実際にきれいになったか」といったより深い理解を可能にするからだ。

しかし、RoborockやEcovacsといった中国の競合他社がLiDARを早期に採用し、より低価格で製品を提供していたことは認めざるを得ない。また、iRobotがモップ機能と掃除機能を分離した「2-in-1ロボット」の導入が遅れたことについても、「顧客が我々の間違いを投票で示した」と反省を述べた。さらに、iRobotが世界最大の消費者ロボット市場である中国から排除されていたことも、苦戦の一因だったと語った。

ロボット起業家への教訓

  • 市場を理解する: 創造にかかるコスト以上の価値を提供する製品を作る。ロボットは魅力的だが、解決すべき問題を理解せず「自分の作りたいもの」に夢中になってはいけない。
  • ロボティクスは「ツールキット」である: 「ロボットを作る」と考えるのではなく、ロボティクスは問題を解決するための「ツールキット」であると捉えるべきだ。かつては人間型ロボットが掃除機を押すという発想があったが、ルンバはその1万分の1のコストで同じ機能を提供した。
  • ロマンスを乗り越え、実用性を重視する: テクノロジーへのロマンスや機会に惑わされず、アプリケーションと問題解決に焦点を当てること。消費者を理解し、解決すべき問題を理解することが重要だ。ロボティクスは複雑で高価であり、成功には多大なエネルギーが必要となる。

新たな挑戦

アングル氏は現在、新たなベンチャー企業を立ち上げ、ステルスモードで活動していることを明かした。新たな挑戦は「消費者向け」であり、特に「ヘルスケアとウェルネス関連のアプリケーション」に焦点を当てているという。

彼は、「人間レベルではないが、十分に感情的な洗練さを持つロボット」を開発し、ユーザーと「永続的な共同キャラクター」を築くことを目指している。「この新しいツールキットを使って、私たちが約束されたロボットを構築する」ことに情熱を燃やしており、大学院生の頃からの夢を追い続けていると語った。30年間床の清掃ロボットに注力してきたが、今度は全く新しい分野に挑戦できることを楽しみにしていると結んだ。


元記事: https://techcrunch.com/2025/12/20/it-felt-so-wrong-colin-angle-on-irobot-the-ftc-and-the-amazon-deal-that-never-was/