マイクロドージング研究に衝撃:LSDはカフェインに劣る?—大手バイオ企業がうつ病治療効果を疑問視

はじめに:マイクロドージングへの期待と新たな疑問

約10年前から、精神衛生、薬物科学、シリコンバレーのバイオハッキングの分野で注目を集めてきたのが「マイクロドージング」です。これは、幻覚作用を伴わないごく少量のサイケデリック薬物(主にシロシビンやLSD)を摂取することで、気分やエネルギーの向上、集中力の増加、さらにはうつ病症状の緩和といった効果を期待するプラクティスです。多くのメディアでその「奇跡的な効果」が報じられ、一部では「サイケデリック版スイスアーミーナイフ」とまで称されました。しかし、その効果が本当に科学的に裏付けられたものなのか、という疑問の声も存在しました。

MindBio Therapeuticsの画期的な研究結果

オーストラリアのバイオファーマ企業MindBio Therapeuticsが発表した広範囲にわたる新たな研究は、マイクロドージングの効果、特に臨床的うつ病の治療においては、過大評価されている可能性を示唆しています。主要な第2相B試験では、大うつ病性障害の成人患者89名を対象に、LSDマイクロドージングの効果を調査しました。

驚くべきことに、LSDの少量摂取(4~20μg)は、プラセボとして投与されたカフェイン錠剤に比べ、モンゴメリー・アスバーグうつ病評価尺度(MADRS)スコアにおいて劣るという結果が出ました。MindBioのCEOであるジャスティン・ハンカ氏は、この研究を「マイクロドージングにおいてこれまで行われた中で最も厳格なプラセボ対照試験」と評し、その結果から「臨床的うつ病治療におけるマイクロドージングの終焉を告げるものになるだろう」とコメントしています。

プラセボ効果の力:科学者たちの見解

この結果は、マイクロドージングの恩恵が、薬物自体の微細な効果ではなく、いわゆる「プラセボ効果」によるものだと長年考えてきた懐疑的な研究者たちの見解と一致します。モントリオール・マギル大学の元博士課程学生ジェイ・A・オルソン氏は、2020年に行った実験「Tripping on Nothing」で、参加者にプラセボを与えながらも「シロシビン様の薬物」であると伝えました。その結果、参加者の大半が薬物の効果を感じたと報告したのです。オルソン氏は、「プラセボ効果はサイケデリック研究において予想以上に強力である」と結論付けています。

研究デザインへの議論と過去の研究

MindBioの第2相B試験では、「二重ダミー(double-dummy)」と呼ばれる研究デザインが採用されました。患者はLSD、カフェイン錠剤、またはメチルフェニデートのいずれかを投与される可能性があると伝えられたため、彼らが感じた効果がLSDによるものなのか、それともアクティブプラセボによるものなのかを判断しにくくしました。

しかし、「ファディマン・プロトコル」の考案者であるベテランサイケデリック研究者ジム・ファディマン氏は、この結論と研究デザインを強く批判しています。彼は、カフェインというアクティブプラセボが純粋なプラセボ効果を歪めた可能性を指摘しています。ファディマン氏は、MindBioが以前行った非盲検の第2相A試験では、LSDマイクロドージングがMADRSスコアを59.5%減少させるなど、顕著な改善を示したことを強調しています。ハンカ氏も、この二つの研究結果の大きな隔たりに「当惑している」と述べていますが、厳密な対照試験の重要性を強調しています。

効果がプラセボであっても:個人の体験と科学のジレンマ

こうした研究結果にもかかわらず、マイクロドージングの熱心な支持者の中には、動じていない人もいます。作家のアイレット・ウォルドマン氏は、自らのうつ病治療のためにマイクロドージングを試した経験を綴った著書『A Really Good Day』の中で、もし効果がプラセボによるものであったとしても、「それがどうしたというのか。重要なのは気分が良くなったことだ」と述べています。

もし効果が測定可能で再現性があるならば、それがサイケデリック薬物によるものか、あるいはプラセボという(おそらく同程度に深遠な)謎によるものかは、もはや重要ではないのかもしれません。しかし、LSDが米国麻薬取締局によって依然としてスケジュールI薬物に分類されていることを考えると、重度の臨床的うつ病の治療にLSDを使用しようとする人々が、その法的リスクを冒す必要があるのかという疑問は残ります。

マイクロドージングからの転換:AIヘルスケアへの新たな展望

この研究結果を受け、ジャスティン・ハンカ氏はMindBioのマイクロドージング研究からの撤退を示唆しています。彼の次のプロジェクトは「Booze A.I.」。これは、人工知能を用いて人間の声から血中アルコール濃度を決定する関連バイオマーカーをスキャンするスマートフォンアプリです。

ハンカ氏は、マイクロドージング研究に投じた数百万ドルの個人的な投資を振り返り、「もし6年前にサイケデリックスについて知っていたことを当時知っていれば、おそらくマイクロドージング分野には手を出さなかっただろう」と失望を表明しています。この動きは、バイオ医薬品業界における研究の方向性が、厳密な科学的検証を経て、より有望な分野へとシフトしていく可能性を示唆しています。


元記事: https://arstechnica.com/health/2026/01/placebo-outperforms-lsd-microdosing-for-depression/