はじめに
スマートフォンメーカー各社は、競合との差別化を図るため、望遠レンズの開発に全力を注いでいます。これは、近年スマートフォンカメラの性能が飛躍的に向上し、特にメインカメラは「あらゆる照明条件で優れた写真が撮れる」という、かつての差別化要因がすでに達成されてしまったためです。
2023年のYouGov調査によると、米国のフラッグシップ携帯電話購入者の半数以上が「写真の品質」を重要な要素と考えており、バッテリー寿命に次ぐ重要性を持っています。他のスマートフォン機能が均質化する中で、カメラは「製品ごとの違いを生み出す余地」となっており、特に「望遠レンズ」がその主戦場となっています。
望遠カメラ競争の幕開け
望遠カメラ競争の火付け役となったのは、2020年に登場したSamsung Galaxy S20 Ultraでしょう。同社の「Space Zoom」は5倍光学式折りたたみ式ペリスコープレンズを搭載し、デジタルズームで「100倍」という驚異的な倍率をアピールしました。この「100x」表記は後に批判の対象ともなりましたが、メーカーが望遠カメラを重視する流れを加速させました。
その後、Appleは2021年に初の3倍望遠レンズ搭載iPhone(iPhone 13 Pro)を投入。GoogleはPixel 6 Proで48メガピクセルの4倍ペリスコープ望遠レンズを、SamsungはS21 Ultraで10倍望遠レンズを採用するなど、各社が「より長いズーム倍率、より大きなセンサー、より明るいF値、より多くのピクセル」を追い求める軍拡競争に突入しました。その結果、Xiaomi 15 Ultraのような巨大なカメラモジュールを持つスマートフォンが当たり前になりました。
進化する望遠技術とトレンド
現在の望遠カメラ市場では、さらなる技術革新が見られます。
- 高解像度化: VivoはX100 Ultraで200メガピクセルの望遠レンズを導入し、HonorやXiaomiも追随しています。
- 複数レンズ: Samsungは1台のスマートフォンに異なるズーム倍率の望遠レンズを2つ搭載する機種を登場させています。
- 連続光学ズーム: SonyがXperia 1 IVで試みた連続光学ズームを、Xiaomiが17 Ultraで回転式ズームリングを設けて復活させました。
- 革新的な光学設計: HuaweiのPura 80 Ultraは、1つのセンサーの上に2つの望遠レンズを配置し、可動プリズムで光を切り替えることで、より大きなセンサーの使用を可能にしました。
- 外部アクセサリ: VivoのX200 Ultraは、専用ケースを介して装着する8.7倍光学ズームの望遠エクステンダーを導入しました。OppoやHonorも同様の製品を提供しています。
しかし、単に「より長く」という競争から、「より良い写真品質」への転換も見られます。最近のフラッグシップモデルでは、ポートレートや製品撮影に実用的な3〜4倍光学ズームに戻る傾向があります。これにより、より大きなセンサーと明るいF値が可能になり、夜間性能の向上や、専用のポートレートモードなしでも自然なボケ味を実現しています。筆者も、望遠カメラの方がメインカメラよりも魅力的な構図と深度が得られるため、望遠カメラでの撮影が圧倒的に増えたと述べています。
今後の展望
望遠カメラの軍拡競争は今後も続くと予想されます。Xiaomiの連続ズームやHuaweiの光学設計の模倣、そして伝統的な望遠レンズのさらなる大口径化や大型センサー化が進むでしょう。さらに外部エクステンダーレンズも、より長く、より高性能なものが登場する可能性があります。
また、「AIズーム」も主要な成長分野です。GoogleのPixel 10シリーズに搭載された「Pro Res Zoom」のように、生成AIがデジタルズームの画質向上に活用され始めています。これは「写真とは何か」という根源的な問いを提起しますが、高価なハードウェア部品に代わるソフトウェアによる画質向上の手段として、メーカーは積極的に導入を進めるでしょう。
望遠レンズの課題の一つである「低照度性能」も改善が進んでいます。センサーやF値の小型化、手ぶれ補正の難しさなどからメインカメラには及ばないものの、この数年で大幅な進化を遂げており、今後もその傾向は続くでしょう。
ただし、望遠レンズも「性能向上の限界点」に近づきつつあります。誰もが求めるわけではない100倍ズームといった極端な性能を追求するだけでなく、より実用的で高品質な望遠撮影体験が求められる時代が来ると予想されます。その時、スマートフォンメーカーは新たな差別化の領域を見つける必要に迫られるでしょう。
元記事: https://www.theverge.com/column/870883/telephoto-phone-camera
