はじめに:スマートホームの新たな一歩
スマートホーム業界において、異なるメーカーのデバイス間での連携は長年の課題でした。しかし、この度、Samsung SmartThingsが既存のThreadネットワークへの参加をサポートしたことで、この状況に大きな進展が見られます。これにより、スマートホームデバイスの相互運用性と信頼性が大幅に向上する可能性を秘めています。
Thread 1.4と「双方向Threadネットワーク統合」とは
Samsung SmartThingsが今回導入したのは、「双方向Threadネットワーク統合」、つまりThread認証情報の共有機能です。これは、昨年リリースされたThread 1.4仕様の一部であり、SamsungのThreadボーダールーターが、他のエコシステムによって既に確立されているThreadネットワークに参加できるようになります。これにより、各デバイスが独自のネットワークを構築するのではなく、既存のネットワークに統合され、より効率的なスマートホーム環境が実現します。
この機能は、まずAeotec Smart Home HubとAeotec Smart Home Hub 2を含む一部のSmartThingsハブで利用可能となり、今後さらに多くのハブに展開される予定です。
ThreadとMatter:スマートホームの基盤
Threadは、ドアロック、照明、センサーなどの低電力デバイス向けに設計されたワイヤレススマートホームプロトコルであり、Matterスマートホーム標準によって利用されています。Threadデバイスを他のネットワークやインターネットに接続するためには、Threadボーダールーターが必要です。複数のボーダールーターを持つことは、Threadデバイスの範囲と、自己修復型メッシュネットワークの信頼性を向上させます。一つのボーダールーターがダウンしても、別のルーターがトラフィックを引き継ぐことができます。
Matterは、クラウド接続に依存せずに、家庭内の接続デバイスがローカルで通信するための共通言語を提供するように設計されたスマートホーム相互運用性標準です。安全でプライベートであり、セットアップが簡単で、幅広い互換性があります。Wi-Fi、イーサネット、Thread上で動作し、IPベースの接続ソフトウェアレイヤーとして機能します。
相互運用性の課題と解決への道
2022年にMatterがローンチされた当初、Apple TVのようなメーカーのThreadボーダールーターが、Eero Wi-Fiルーターのような別のメーカーのボーダールーターと接続するための標準的な方法はありませんでした。このため、それぞれが別々のThreadネットワークを構築し、デバイス間の通信を妨げることがよくありました。
この問題に対処するため、Threadプロトコルを監督する組織であるThread Groupは、昨年、1.4仕様で「認証情報共有」を義務付けました。これは、Threadデバイスとボーダールーターが既存のThreadネットワークに参加するための標準化された方法を提供します。
主要企業の対応状況と今後の展望
現在、SmartThingsはThread 1.4を採用し、Appleも最新のiOS 26アップデートでApple TVとHomePod(これらもThreadボーダールーターです)にこの機能を組み込んでいます。しかし、Appleはまだ認証情報共有のためのインターフェースを公開していません。
一方、AmazonとGoogleはまだThread 1.4をサポートしていませんが、両社とも対応に取り組んでいると述べています。AmazonのEchoデバイスはThread 1.3ですが、来年にはThread 1.4を有効にし、認証情報共有をサポートする計画です。Amazon傘下のWi-Fiルーター企業Eeroも一部の1.4機能を有効にしていますが、既存のThreadネットワークとの統合はまだサポートしていません。
この進展は、スマートホームエコシステム間の真の相互運用性に向けた重要な一歩であり、ユーザーはより柔軟で信頼性の高いスマートホーム体験を享受できるようになるでしょう。
セキュリティへの影響
この「双方向Threadネットワーク統合」は、スマートホームのセキュリティとプライバシーにも好影響をもたらします。複数の独立したネットワークが存在するよりも、標準化された方法で統合されたネットワークは管理が容易になり、潜在的な脆弱性の発生を抑制する可能性があります。また、Threadの自己修復型メッシュネットワークは、一つのノードが機能しなくなってもネットワーク全体の信頼性を維持し、スマートホーム環境の堅牢性を高めます。Matter標準が掲げる「安全でプライベート」という原則と相まって、今回のSmartThingsの対応は、よりセキュアで使いやすいスマートホームの未来を築く上で重要な意味を持ちます。