破産したリリウムの技術がアーチャー航空へ
かつて電動航空機の開発で注目を集めたドイツのスタートアップ、リリウム(Lilium)は、約1年前に事業を停止し、破産手続きに入りました。しかし、その革新的な技術は消滅することなく、米国のアーチャー航空(Archer Aviation)によって引き継がれることになりました。
リリウムは、再建に向けた複数の試みが失敗に終わった後、最終的に破産管財人による競争入札プロセスを経て、その資産が売却されることになりました。この入札には、アンビシャス・エア・モビリティ・グループや米国のジョビー・アビエーション(Joby Aviation)も参加しましたが、アーチャー航空が1,800万ユーロ(約2,100万ドル)でリリウムの全300件の特許資産を落札し、その技術の継承者となりました。
買収された主要技術とその戦略的価値
アーチャー航空の広報担当者によると、今回取得された特許は、eVTOL(電動垂直離着陸機)の重要な技術にわたるものです。具体的には、以下の分野が含まれます。
- 高電圧システム
- フライトコントロール
- ダクトファン
- 先進的な航空機設計
これらの特許は、アーチャー航空の成長する知的財産(IP)ポートフォリオに「強力な追加」となり、同社のグローバル特許資産は1,000件以上に達したとされています。特に、eVTOL技術は将来の航空モビリティの基盤となるものであり、防衛用途への応用も期待されることから、今回の特許買収はアーチャー航空の戦略的優位性を大きく高めるものと見られます。
リリウムの軌跡と業界への教訓
2015年に設立されたリリウムは、最高時速100kmのVTOL航空機を開発していました。同社は、テンセントなどの著名な投資家から10億ドル以上を調達し、2021年にはSPACとの逆合併を通じてナスダック市場に上場しました。サウジアラビアから100機の電動ジェットの受注を獲得するなど、顧客獲得にも成功しましたが、製品を市場に投入する前に多額の資金を使い果たし、最終的に事業停止に至りました。
リリウムの事例は、革新的な技術を持つスタートアップであっても、資金管理と製品化の難しさを浮き彫りにしています。しかし、今回の特許買収は、企業の存続に関わらず、知的財産が持つ本質的な価値と、それが業界の進化に与える影響の大きさを示しています。
アーチャー航空の今後の展望
アーチャー航空がこれらの特許をどのように活用するかはまだ完全に明らかではありませんが、いくつかのヒントがあります。リリウムの電動ダクトファン技術は、アーチャー航空の当初のミッションであるエアタクシーネットワークの構築を超え、軽スポーツ機や地域電動飛行といった分野に応用される可能性があります。
アーチャー航空は、2021年にSPACとの合併を通じて上場し、昨年12月には防衛プログラムを追加。武器メーカーのアンドゥリル(Anduril)との独占契約により、重要な防衛用途向けのハイブリッドガス・電動VTOL航空機を共同開発しています。今回のリリウムの特許取得は、特に防衛分野における同社の技術的基盤をさらに強化し、競争力を高めることにつながるでしょう。
