iPad Pro、真のコンピューターへの道:セキュリティモデルへの影響は?

iPad Proの進化:タブレットから「コンピューター」へ

AppleのiPad Proは、その登場から10年を経て、単なる大型タブレットから「コンピューター」としての地位を確立しつつあります。2010年の初代iPadが「大きなiPhone」として登場して以来、Appleはデバイスの大型化がユーザー体験をどう変えるかに注目してきました。そして2015年に登場したiPad Proは、当初こそ既存のコンピューターに比べて機能が限定的であると見なされ、特にその「厳格なセキュリティポリシー」やマルチタスク機能の不足が指摘されていました。

しかし、Apple PencilやSmart Keyboardといったアクセサリーの進化、USB-Cの採用、外部ドライブのサポート、そして「ファイル」アプリの機能強化など、着実にその能力を拡張。最新のM5チップを搭載したiPad Proは、薄型軽量なデザイン、美しいOLEDディスプレイ、そしてMagic Keyboardとの組み合わせにより、MacBookに匹敵する操作感を提供します。さらに、iPadOS 26ではフリーフォームマルチタスク、メニューバー、Previewアプリなど、これまでPCに限定されていた機能が導入され、その「コンピューター」としての側面は一層強化されています。

「人工的な制限」とセキュリティのトレードオフ

記事では、現在のiPad Proが「真のオールパーパスコンピューター」に極めて近いと評価する一方で、Macと比較して依然として存在する「不必要なシステム上の制限」が指摘されています。具体的には、App Store以外のアプリ実行の不許可、アクセサリーとの連携の制限、Terminalへのアクセス不可、そしてブラウザ機能の制約などが挙げられています。

しかし、セキュリティの観点から見ると、これらの「制限」は必ずしも「バグ」ではなく、むしろ「機能」として捉えることができます。iPadOSの「ウォールドガーデン(囲われた庭)」戦略は、アプリの厳格な審査、システムへの直接アクセスの制限を通じて、マルウェアの侵入経路を大幅に減らし、ユーザーに高いセキュリティと安定性を提供してきました。これは、従来のPCが抱える多様な脅威からユーザーを保護するための、意図的な設計選択と言えるでしょう。

真のコンピューターへの課題とセキュリティの未来

記事の筆者は、AppleがiPad Proを「コンピューター」として完全に受け入れた今、これらの「人工的な制限」を解消すべきだと主張しています。より強力なバックグラウンドアプリの実行、システムレベルのアプリ連携、デスクトップクラスのブラウザ、そしてTerminalアクセスなどが求められています。

もしAppleがこれらの要求に応え、iPadOSの自由度をさらに高めるならば、それは同時に新たなセキュリティリスクをもたらす可能性があります。App Store外からのアプリインストールを許可すれば、マルウェア感染のリスクが増大します。システムへの深いアクセスを許せば、攻撃者にとっての新たな攻撃対象領域が生まれるでしょう。iPad Proが「人工的な制限のないコンピューター」となることは、ユーザーに計り知れない利便性をもたらす一方で、Appleがこれまで築き上げてきた堅牢なセキュリティモデルに、どのような影響を与えるのか。このジレンマは、今後のiPad Proの進化において、最も重要な課題の一つとなるでしょう。


元記事: https://www.theverge.com/tech/817939/ipad-pro-laptop-computer-2025