PCを直接制御するAIエージェント「Simular」が大型資金を調達
Mac OSおよびWindows向けAIエージェントを開発するスタートアップSimularは、シリーズAラウンドで2150万ドル(約32億円)の資金調達を発表しました。このラウンドはFelicisが主導し、NVentures(Nvidiaのベンチャー部門)、既存シード投資家のSouth Park Commonsなどが参加しています。これにより、Simularの総調達額は約2700万ドル(約40億円)に達しました。
Simularは、他の多くのエージェント企業がブラウザ制御に焦点を当てる中、PC自体を直接制御するというユニークなアプローチで注目を集めています。同社のAIエージェントは、ユーザーのMacやWindows PCを自律的に操作し、複雑なタスクを最小限の人間介入で完了させることを目指しています。
Simularの独自技術と「幻覚」問題への挑戦
共同創設者兼CEOのAng Li氏は、「文字通り、画面上のマウスを動かしてクリックすることもできます。これは、デジタル世界における人間のあらゆる活動を繰り返す能力をより高く持っています」とTechCrunchに語り、スプレッドシートへのデータコピー&ペーストを例に挙げました。
エージェントAIが直面する主要な課題の一つは、大規模言語モデル(LLM)が引き起こす「幻覚」(Hallucination)の問題です。エージェントが何千、何百万もの個別のステップを必要とするタスクを実行する際、どのステップでも幻覚が発生すれば、タスク全体が無効になるリスクがあります。Simularは、この問題に対して独自のアプローチを採用しています。
- 人間が介入して成功したタスクのワークフローをエージェントが探求し、学習します。
- 一度成功した「軌跡」は、決定論的なコードとしてロックされ、再現可能なプロセスとなります。
- Li氏は、「当社の解決策は、エージェントに成功した軌跡を探求させ続けさせ、一度成功した軌跡を見つければ、それが決定論的なコードになることです」と説明しています。
同社は、単なるLLMラッパーではなく、「ニューロ・シンボリック・コンピューター・ユース・エージェント」と呼ばれる新しい技術を使用していると述べています。これにより、LLMが決定論的なコードを生成することで、ユーザーはそのコードを「検査し、監査し、何が起こっているかを確認できる」ため、信頼性が高まるとLi氏は強調しています。
Mac版のリリースとWindows版への展開
Simularは先週、Mac OS向け1.0バージョンをリリースしました。さらに、同社はMicrosoftと協力し、Windows版エージェントの開発を進めています。Simularは、11月中旬にMicrosoftが発表した「Windows 365 for Agents」プログラムに採択された5社のうちの1社であり、Windows版の登場にも期待が高まります。
Google DeepMind出身の創業者たち
Simularの共同創設者であるLi氏とJiachen Yang氏は、かつてGoogleのDeepMindで働いていたという強力な経歴を持っています。Li氏は継続学習科学者、Yang氏は強化学習の専門家であり、彼らのチームはWaymoを含むGoogle製品の改善に貢献してきました。このAI製品開発の豊富なバックグラウンドが、Simularの技術開発を支えています。
多様な業界での活用事例
Simularの技術は、すでに多様な業界で活用され始めています。初期のベータ顧客には、自動車販売店で車両識別番号(VIN)の検索を自動化している企業や、PDFから契約情報を抽出しているHOA(住宅所有者協会)などが含まれます。また、Mac OS向けに公開されているオープンソースプロジェクトは、コンテンツ作成からセールス・マーケティングに至るまで、幅広い自動化に利用されているとのことです。
投資家と今後の展望
今回の資金調達には、上記の他にBasis Set Ventures、Flying Fish Partners、Samsung NEXT、Xoogler Ventures、ポッドキャスター兼エンジェル投資家のLenny Rachitskyといった投資家も参加しています。
Simularのアプローチが、AIエージェントをすべてのワーカーの手に届ける「魔法」となるか、その今後の展開に注目が集まります。
