EU、デジタルサービス法(DSA)初の罰則を適用:Xに1億2,000万ユーロの罰金
欧州委員会(EC)は、画期的なデジタルサービス法(DSA)に基づく初の罰則をソーシャルメディアプラットフォーム「X」(旧Twitter)に科し、1億2,000万ユーロ(約1億4,000万ドル)の罰金を命じました。この制裁は、Xの「ブルートチェック」認証システムがユーザーを「欺瞞的」に誘導していると判断されたことによります。
ECは、Xがかつて身元確認の証であったブルートチェックを、有料サブスクリプションサービス「X Premium」の加入者に提供している現状を問題視しています。これにより、ユーザーはアカウントの信頼性を判断することが困難になり、詐欺やなりすまし、情報操作のリスクに晒されると指摘しました。
「欺瞞的」とされたブルートチェックシステム
かつてTwitterは、ジャーナリスト、著名人、政治家などの公人に対し、厳格な身元確認を経てブルートチェックを付与していました。しかし、イーロン・マスク氏による買収後、この方針は2023年に撤廃され、現在ではX Premiumに加入し、一定の基準(プロフィール写真、表示名、電話番号連携など)を満たせば誰でもブルートチェックを取得できるようになりました。
欧州委員会は声明で、「Xが『認証済みアカウント』に『ブルートチェック』を使用することは、ユーザーを欺く行為である」とし、「これは、オンラインプラットフォームがサービス上で欺瞞的なデザイン慣行を禁止するというDSAの義務に違反する」と強く非難しています。Xが有料で「認証済み」ステータスを提供し、その背後にある人物を実質的に確認しない現状は、ユーザーがアカウントの信頼性を判断する上で障壁となっている、というのがECの見解です。
広告の透明性とデータアクセスに関する違反
ブルートチェックシステムの問題に加え、ECはXがDSAの以下の要件にも違反していると指摘しています。
- 広告リポジトリの透明性とアクセシビリティの欠如: Xの広告リポジトリがDSAの要件を満たしておらず、広告の内容、トピック、支払い者などの重要な情報が不足しているため、研究者や一般市民がオンライン広告における潜在的なリスクを独自に精査することを妨げているとされています。
- 研究者による公開データへのアクセス提供の不履行: DSAは、公開プラットフォームに対し、研究者が体系的なリスクを研究するために公開データへアクセスすることを義務付けていますが、Xはこれに応じていないと判断されました。ECの調査により、研究者が公開データにアクセスする際のプロセスに不必要な障壁を設けており、EUにおける様々な体系的リスクに関する研究を実質的に阻害していることが判明しました。
背景とDSAの重要性
この決定は、ECが2年前にXに対する調査を開始したことに端を発しています。この調査では、リスク管理、コンテンツモデレーション、ダークパターン、広告の透明性、研究者へのデータアクセスに関連する規則違反の疑いが焦点となっていました。
欧州委員会の技術主権・安全保障・民主主義担当上級副委員長ヘンナ・ヴィルックネン氏は、「ブルートチェックでユーザーを欺き、広告に関する情報を隠蔽し、研究者を締め出す行為は、EUのオンライン環境では許されません」と述べ、DSAの厳格な運用姿勢を強調しました。
今後の対応と潜在的影響
今回の決定を受け、Xはブルートチェックに関する苦情に対しては60日以内に、広告および公開データの透明性とアクセシビリティに関する違反については90日以内に、それぞれ対応計画を提示する必要があります。DSAに違反が確認された場合、全世界の年間売上高の最大6%という巨額の罰金が科される可能性があり、Xの今後の対応が注目されます。
