インド、AI著作権料の義務化を提案:GoogleとOpenAIに影響か

はじめに

インド政府が、著作権で保護されたコンテンツでAIモデルを学習させるAI企業に対し、著作権料の支払いを義務付ける制度を提案しました。この動きは、OpenAIやGoogleといった大手AI企業にとって、世界で最も重要かつ急速に成長している市場の一つであるインドでの事業運営を大きく変える可能性があります。

提案の概要

インドの産業・国内貿易促進省(Department for Promotion of Industry and Internal Trade)が発表した枠組み案によると、AI企業は著作権で保護された全ての作品にアクセスできるようになります。その代わりに、権利者団体で構成される新しい徴収機関にロイヤリティを支払い、徴収機関がその収益をクリエイターに分配するというものです。

この提案は、AI企業が「強制的な包括ライセンス」を通じてコンプライアンスコストを削減しつつ、作家、音楽家、芸術家などの権利者が、その作品が商業用モデルの学習に利用された際に適切に補償されることを目指しています。

提案の背景と目的

インド政府の提案は、AI企業が著作権素材を学習に利用する方法に関する世界的な懸念が高まる中で行われました。米国や欧州では、著作権侵害を巡る訴訟が相次いでおり、裁判所や規制当局は「フェアユース」の適用範囲について議論しています。インドは、透明性義務やフェアユースの境界が議論されている他の国々と異なり、AI企業に著作権素材への自動アクセスを認め、その代わりに対価を支払うという、より介入的なアプローチを提案しています。

インド政府は、このシステムが長年の法的不確実性を回避し、最初からクリエイターに補償を保証すると主張しています。委員会は125ページの提出書類で、包括ライセンスがAI開発者へのコンテンツアクセスを容易にし、取引コストを削減し、権利者への公正な補償を確保する「最も負担の少ない方法」であると述べています。

また、インド市場が生成AIツールの重要性を増していることも背景にあります。OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が「インドは米国に次ぐ2番目の市場であり、最大の市場になる可能性もある」と述べたことに触れ、AI企業がインドのユーザーから多大な収益を得ており、インド人クリエイターの作品に依存してモデルを学習させている以上、その価値の一部がクリエイターに還元されるべきだと指摘しています。

業界からの反発

しかし、インド政府の提案に対しては、すべての関係者が賛同しているわけではありません。GoogleやMicrosoftを含むテクノロジー企業の業界団体であるNasscomは、インドは代わりに、合法的にアクセスされたコンテンツであればAI開発者が著作権で保護されたコンテンツを学習に利用できる広範なテキスト・データマイニング(TDM)例外を採用すべきだと正式な異議を唱えました。Nasscomは、義務的なライセンス制度がイノベーションを阻害する可能性があり、権利者はオプトアウトできるべきだと警告しています。

Adobe、Amazon Web Services、Microsoftなど、グローバルなテクノロジー企業を代表するビジネス・ソフトウェア・アライアンス(BSA)も、ライセンスのみに基づく制度を避けるようインド政府に働きかけました。BSAは、ライセンスまたはパブリックドメインの素材の限定されたセットにAIモデルを制限することは、モデルの品質を低下させ、限定された学習データの傾向や偏りを反映するリスクを高めると主張し、明確なTDM例外がイノベーションと権利者の利益のバランスをより良く取ると訴えました。

委員会は、広範なテキスト・データマイニング例外やオプトアウトモデルは、著作権保護を損なうか、施行が不可能であるとして考慮しませんでした。その代わりに、AI企業に合法的に利用可能なすべての著作権で保護された作品への自動アクセスを許可しつつ、収益をクリエイターに分配する中央徴収機関に著作権料を支払うという「ハイブリッドモデル」を提案しています。

今後の展望

インド政府は現在、この提案に対するパブリックコメントを30日間受け付けています。フィードバックを検討した後、委員会は最終勧告をまとめ、政府がこの枠組みを採用するかどうかを決定する予定です。

なお、OpenAIとGoogleは、この件に関するコメント要請に応じていません。


元記事: https://techcrunch.com/2025/12/09/india-proposes-charging-openai-google-for-training-ai-on-copyrighted-content/