ISSの「軌道保管」の可能性を議会がNASAに要求:2030年退役計画に再考の動き

宇宙ステーションの未来:NASAに「軌道保管」分析を要求

米国下院科学・宇宙・技術委員会は今週、NASAの権限付与法案を可決しました。この法案には40以上の修正案が追加され、その中には国際宇宙ステーション(ISS)の2030年退役後の取り扱いに関する重要な項目が含まれています。NASAの現在の計画では、2031年にISSを太平洋上へ「制御された軌道退役」させ、大気圏再突入で燃え尽きなかった残骸を人里離れた海域に落下させることになっています。

しかし、今回可決された修正案は、NASAに対し、ISSを「安全な軌道港に移動させ、潜在的な再利用のために保管する技術的、運用的、物流的実現可能性を評価する」よう指示するものです。これは、長年にわたり運用されてきた貴重な宇宙資産の終焉について、新たな視点をもたらす可能性があります。

1000億ドル以上の資産をどうする?

この修正案を提出したのは、元NASAチーフオブスタッフであり、宇宙産業のベテランであるジョージ・ホワイトサイズ議員(民主党・カリフォルニア州)です。ホワイトサイズ議員はISSを「人類史上最も複雑な工学的成果の一つ」と称し、米国納税者から1000億ドル以上の投資がなされてきた点を強調しました。彼は、「この規模の資産を永久に処分する前に、将来の世代による潜在的な利用のために軌道上で保存することが可能かどうかを完全に理解すべきではないか」と問いかけています。

現在のISSの運用終了時期は2030年から変更されるものではありませんが、この修正案は、その後の処遇に関する検討を促すものです。

現行の退役計画と代替案

NASAは2024年にSpaceXと約10億ドルの契約を締結し、ISSを目標地点に誘導するための改良型「ドラゴン」宇宙船の開発を進めています。この宇宙船は、ISSを制御された大気圏再突入軌道に乗せるための追加スラスターと推進剤タンクを備える予定です。

ISSの質量は約450トン(貨物列車2両分に相当)で、全長はアメリカンフットボール場ほどもあります。その速度をわずか約127 mph(57 m/s)減速させるだけでも、約10トン(9メトリックトン)の推進剤が必要とされています。

NASAの分析では、大気圏再突入以外の選択肢として、ISSをより高い軌道に移動させる案も検討されました。現在の高度約260マイル(420km)では、再ブーストがなければ1〜2年で大気圏に再突入しますが、これを以下の高度に引き上げることで、寿命を大幅に延ばすことが可能です:

  • 400〜420マイル(640〜680km):約18.9〜22.3メトリックトンの推進剤で、100年間軌道に留まる可能性。
  • 1,200マイル(2,000km):約133メトリックトンの推進剤で、10,000年以上安定。

高軌道への課題:技術と宇宙ゴミ

しかし、ISSを高軌道に移動させるには、いくつかの大きな課題があります。NASAの分析によると、まず「現状存在しない新型推進・タンカー車両の開発」が必要となります。SpaceXのStarshipのような車両が開発中ではあるものの、これほど大規模な車両をISSにドッキングさせ、ステーションの構造的限界内でスラスターを使用することには「禁止的な工学的課題」が存在すると指摘されています。

また、高軌道への移動は「宇宙ゴミとの衝突リスクが増大」させるという懸念もあります。特に約500マイル(800km)付近では宇宙デブリによる危険が最も深刻であり、「ステーションが操縦不能になったり、重大な衝突により完全に破砕されたりする可能性が、許容できないほど高い」と分析されています。

商業宇宙ステーションへの移行と課題

NASAの公式戦略は、ISSの退役後、低軌道での研究活動を継続するために、商業セクターによる新しい、より安価で小型な宇宙ステーションへの移行を支援することです。これにより、NASAは月や火星への有人探査ミッションに注力し、低軌道での活動は商業パートナーに委ねる計画です。

しかし、この商業LEO拠点(CLD)プログラムは、開始当初から資金不足に悩まされており、政策面でも混乱が見られます。NASAはISSの運用に年間30億ドル以上を費やしていますが、CLDプログラムには今年度2億7300万ドルしか割り当てられていません。商業ステーション開発企業は、政府が資金提供するISSが運用されている限り、医薬品研究、技術デモンストレーション、宇宙観光といった分野で十分な商業ビジネスを誘致できないのではないかと懸念を表明しています。

業界の反応

商業宇宙ステーションの分野では、Vast社が2027年初頭に初の単一モジュール商業ステーション「Haven-1」を打ち上げる計画を立てています。Vast社のCEOであるマックス・ハオト氏は、ISSの退役と商業パートナーへの移行は別問題であるとし、今回の修正案を支持する意向を示しています。

この分野の主要な競合企業には、Voyager SpaceとAirbusの合弁事業である「Starlab」、Blue Originが主導する「Orbital Reef」プロジェクト、そして「Axiom Space」などがあります。議会の動きは、宇宙インフラの未来に関する議論に新たな側面を加えることになりそうです。


元記事: https://arstechnica.com/space/2026/02/congress-advances-bill-requiring-nasa-to-reconsider-deorbiting-space-station/