創薬における合成の障壁を乗り越える
2025年11月19日、化学創薬プロセスを簡素化するAI企業Onepot AIが、シードラウンドを含む総額1300万ドルの資金調達を発表しました。同社の目標は、新薬開発のボトルネックとなっている複雑な分子合成の課題を解決することです。共同創業者のダニール・ボイコ氏とアンドレイ・タイリン氏は、「最高の創薬アイデアでさえ、生物学ではなく合成によって阻害されている」という共通の認識からOnepot AIを設立しました。
ボイコ氏は、有望な化合物が合成の難しさゆえにテストされる機会すら得られない状況を目の当たりにし、タイリン氏は、分子設計モデルが数時間でアイデアを生み出す一方で、実際のラボでの合成には数ヶ月かかるという「遅れ」に直面していました。
Onepot AIのアプローチ:AI有機化学者「Phil」と自動化ラボ「POT-1」
Onepot AIは、これらの課題に対応するため、小分子合成に特化したラボ「POT-1」を設立し、さらにAI有機化学者「Phil」を開発しました。Philは実験分析を支援し、化合物合成プロセスを加速させます。彼らは、バイオテクノロジー企業や製薬企業を初期の商業パートナーとして、この技術の実用化を進めています。
同社のサービスは、顧客が希望する化合物のカタログから選択し、Onepot AIの技術が分子を合成して顧客に届けるという、物理的な製品配送を伴います。ラボで行われるすべての実験は、温度や混合物の成分といった細部にわたるデータが記録され、再現性の高いプロセスを確立しています。これにより、AIエージェントは実世界の実験データから仮説を生成し、創薬における試行錯誤を大幅に削減することを目指しています。
地政学的リスクとサプライチェーンセキュリティへの影響
今回の資金調達は、単なる創薬の効率化に留まらない、より広範なサプライチェーンセキュリティと国家安全保障の文脈で重要な意味を持ちます。ボイコ氏は、「世界のサプライチェーンは脆弱になりつつあり、米国は再び中国との貿易戦争と革新的な競争に突入している」と指摘し、「米国において小分子合成をゼロから再構築する必要があるのは明らかだった」と述べています。
現在、製薬・バイオテクノロジー企業は、社内に化学者のチームを構築するか、海外の研究機関に依存しているのが現状です。人間の化学者が1つの化合物を合成するのに数ヶ月と数千ドルの費用がかかることと比較して、Onepot AIはこれを「数日」に短縮することを目指しています。これは、医薬品開発における外部依存度を減らし、国内での安定供給能力を高める上で極めて重要な進歩となります。
資金調達と今後の展望
今回の資金調達は、Fifty Yearsが主導し、Khosla Ventures、Speedinvest、OpenAIの共同創業者であるWojciech Zaremba、GoogleのチーフサイエンティストであるJeff Deanといった著名な投資家が参加しました。
調達した資金は、サンフランシスコに第2のラボを建設し、顧客基盤を拡大するとともに、チームと化合物発見エンジンの強化に充てられます。Onepot AIは、創薬プロセスを少なくとも2倍速くし、これまで不可能と考えられていた「奇妙な化学」の探求を可能にすることで、医薬品や材料の設計空間を拡大することを目指しています。これは、未来の医薬品発見における戦略的自律性を高める重要な一歩となるでしょう。
元記事: https://techcrunch.com/2025/11/19/onepot-ai-raises-13m-to-help-make-chemical-drug-creation-easier/
