はじめに:AI大統領令草案の衝撃
先日、ドナルド・トランプ政権が準備していたとされるAIに関する大統領令の草案がリークされ、テクノロジー業界と政府の間の権力バランスに大きな波紋を広げています。この草案は、AI業界が長年目標としてきた州によるAI規制の先制措置(preemption)、すなわち州レベルでのAI法制定を阻止する狙いがあると報じられています。
草案のリークは、トランプ政権内でAIおよび暗号資産政策に大きな影響力を持つとされる、あるテック系億万長者、デイビッド・サックス氏に対する不満の表れではないかとの見方も出ています。
州のAI規制に対する「冷え込み効果」
この大統領令草案は、文字通り州のAI規制を即座に「停止」させるものではありませんが、その意図は明らかです。法とAI研究所の上級研究員であるチャーリー・ブロック氏は、この草案が州レベルのAI立法に「冷え込み効果」をもたらす可能性を指摘しています。
- 草案では、司法省に対し、州のAI法を巡って州を訴訟するタスクフォースの設立を指示しています。
- 連邦政府は、州の「過酷なAI法」と見なされるものに対し、数十億ドルに及ぶ連邦資金(例:ブロードバンド整備資金)の差し止めを検討する可能性があります。
- 連邦取引委員会(FTC)による罰金も課される可能性があります。
ブロック氏によれば、これらの措置は、例え法的に争われ、最終的に州が勝訴したとしても、訴訟や資金停止による時間的・財政的負担が大きく、州が新たなAI法を制定することへの抑止力となるでしょう。
FCCとFTCの役割:前例なき介入
FCC(連邦通信委員会)
草案のセクション6では、FCCがデイビッド・サックス氏と協議し、連邦レベルでの報告・開示基準を策定し、州の競合する法律を先取りする可能性を探るよう指示されています。しかし、ブロック氏は、FCCがAIを規制する法的権限を持っているとは考えられていないと指摘し、この試みが法廷で有効である可能性は低いと見ています。
FTC(連邦取引委員会)
さらに注目すべきは、FTCが「アルゴリズム差別に関する法律」(例:コロラド州の法律)を「欺瞞的行為」と見なし、これを阻止するためにFTC法を用いる可能性が示唆されている点です。ブロック氏は、このような試みがこれまでに例がないと述べ、その法的妥当性について疑義を呈しています。
商務省への権限集中
この大統領令草案で最も大きな権限を与えられているのは、商務長官です。
- セクション4では、商務省が、トランプ政権の政策と矛盾する州の法律を評価し、リストアップするよう求められています。
- セクション5では、このリストに基づいて、BEADプログラム(ブロードバンド公平性アクセスおよび展開プログラム)からの資金提供が停止される可能性のある州を特定します。
さらに、セクション5(b)では、BEAD資金だけでなく、連邦政府が提供するあらゆる種類の裁量的補助金(教育助成金、高速道路助成金など、数千億ドル規模)についても、州の「過酷なAI法」を理由に停止できるかを検討するよう、すべての連邦機関に指示しています。これは、非常に広範囲にわたる影響を及ぼす可能性があり、州政府にとって大きな圧力となります。
結論
このリークされたAI大統領令草案は、AIの規制を巡る連邦政府と州政府の間の新たな戦いの火種となる可能性を秘めています。その法的有効性には疑問が残るものの、連邦政府が資金や訴訟を通じて州に圧力をかけることで、AI規制の動きを事実上停止させる「冷え込み効果」を狙っていることは明らかです。今後、この問題がどのように展開していくか、IT業界、特にAI関連企業にとって、その動向は引き続き注視されるでしょう。
元記事: https://www.theverge.com/column/829938/leaked-ai-executive-order-analysis
