英国オンライン安全法とVPNの台頭
英国政府が導入したオンライン安全法(OSA)の年齢制限措置がこの夏に施行されて以来、驚くべき抜け穴が浮上しています。それは、バーチャルプライベートネットワーク(VPN)の利用です。18歳未満のユーザーが年齢確認を回避し、「有害なコンテンツ」にアクセスするためにVPNが効果的に使われていることが判明し、英国の規制当局や政府関係者の間で「VPNパニック」が引き起こされています。
OSAは2023年に法制化され、今年7月から最も重要な措置が発効しました。これにより、ポルノサイトからBlueskyに至るまで、幅広いウェブサイトやオンラインサービスは英国のユーザーに対し、クレジットカード認証や顔認証などの「厳格な年齢確認」を義務付けられています。しかし、この導入直後、iOSアプリストアの無料アプリ上位10件のうち5件がVPNであったとBBCが報じており、WindscribeVPN、NordVPN、ProtonVPNといった主要サービスでユーザー数が急増したことが報告されています。
政府と規制当局の反応
政府はこの状況を看過しておらず、「何かをしなければならない」との声が高まっています。児童委員会のレイチェル・デ・ソウザ氏は、VPNへのアクセスが「閉鎖されるべき抜け穴」であると述べ、VPN自体にも「非常に効果的な年齢確認」を義務付ける報告書を発表しました。
上下両院でもVPN対策を求める声が上がり、メディア規制機関であるOfcomは、VPNの利用状況を「監視している」とTechradarが報じています。Ofcomは個人レベルの追跡を否定し、匿名化された集計データを利用していると主張していますが、その実態については依然として議論の余地が残されています。
VPN規制の課題
しかし、VPNの完全な禁止は現実的ではありません。政府自身も「VPNを使用する正当な理由がある」と認めています。Internet Societyの政策担当ディレクターであるライアン・ポルク氏は、VPNが以下の多岐にわたる目的で利用されていることを指摘しています。
- 企業による安全な従業員ログイン
- ジャーナリストによる情報源の保護
- 疎外されたコミュニティメンバーによるプライベートなコミュニケーションの確保
- 一般ユーザーによるオンラインプライバシーとセキュリティの確保
- ゲーマーによるパフォーマンス向上と遅延の削減
また、Nord Securityのラウラ・ティリライテ氏やOpen Rights Groupのジェームズ・ベイカー氏も、VPNの利用を技術的に阻止することは「非常に困難であり、ほとんど効果がない」と述べています。ストリーミングサービスのように、年齢制限の対象となるサイトがVPNからのトラフィックをブロックする案も検討されていますが、これはウェブサイト側が英国ユーザーを完全にブロックするか、VPNユーザーをすべてブロックするかの「不可能な選択」を迫る結果となります。
最も現実的な選択肢として浮上しているのが、VPN自体を年齢制限の対象とすることです。しかし、これもまた新たな問題を引き起こす可能性があります。有料VPNはクレジットカードが必要なため、未成年者は無料の信頼性の低いVPNに流れやすく、プライバシーリスクを高めることになると専門家は警告しています。
国際的な動向と今後の展望
英国がオンライン年齢制限の先駆者であるように、VPN規制の議論も他の国や地域へと波及する兆しを見せています。オーストラリアは16歳未満のソーシャルメディア利用を禁止し、EUも独自の制限を試行中です。米国でもミシガン州でISPレベルでのVPN禁止が提案され、ウィスコンシン州ではアダルトサイトにVPNトラフィックのブロックを義務付ける法案が議論されています。
VPNが引き続き年齢制限の最も効果的な回避策である限り、VPN規制を巡る議論は世界中で加熱していくと予想されます。この「VPNパニック」は、まだ始まったばかりなのかもしれません。
元記事: https://www.theverge.com/tech/827435/uk-vpn-restrictions-ban-online-safety-act
