Starlinkが切り開いた「どこでも仕事」の時代
20年にわたり在宅勤務を続ける筆者トーマス・リッカー氏は、リモートワークを支える技術の進化を目の当たりにしてきたが、その中でもStarlinkの登場は最も革新的だったと語る。SpaceXが提供するこの衛星インターネットサービスは、彼が車中や森、人里離れたビーチなど、場所を選ばずに「どこでも仕事」を可能にした。
2019年に衛星の打ち上げが始まったStarlinkは、4G、5G、従来のブロードバンドネットワークの間の広大なギャップを埋めることを目指し、高帯域幅、低遅延のインターネットサービスを迅速かつ容易に提供することで、この分野で独占的な地位を確立した。
Starlinkの現状と課題
Starlinkの衛星コンステレーションは拡大を続け、現在では10,000基以上が運用中であり、その密度は建物や樹木による部分的な障害があっても接続を維持できるほどになっている。ユーザーは20ms~50msの低遅延、100Mbps~400Mbpsのダウンロード速度、10Mbps~40Mbpsのアップロード速度を享受でき、筆者も北海沿いの小屋やバンからの仕事で、理想的なワークライフバランスを実現している。
しかし、最近になって月額料金が上昇し、好評だった一時停止機能が廃止された。これにより、季節利用者は一度サービスを解約し、再契約時に空きがある保証がないという状況に置かれている。これは将来的に高額なアクティベーション料金が導入される可能性を示唆しており、筆者を含む多くのStarlinkユーザーは、競争の不在がSpaceXによる利用者の搾取を許していると感じ、イーロン・マスク氏への依存からの脱却を望んでいる。
迫り来る競争:Amazon Leoの挑戦
Starlinkの独占状態を打破するべく、Amazonは「Leo」(旧Project Kuiper)と呼ばれる衛星インターネットサービスの提供を開始した。現時点では一部の法人顧客向けに「エンタープライズプレビュー」として提供されており、広範な展開は2026年が予定されている。現在、Leoの衛星数は153基にとどまっており、Starlinkのようなサービス密度にはまだ達していない。
AmazonはBlue Originの新型ロケット「New Glenn」の運用開始によって、2026年には衛星展開を加速させる可能性がある。Leoは最大1Gbpsの速度を約束しており、これは現在のStarlinkでは提供できない性能だ。価格設定は未発表だが、AmazonがPrime会員サービスとバンドルし、Starlinkに対抗して低価格戦略をとる可能性も指摘されている。
その他の競合と懸念事項
Amazon Leo以外にも、Starlinkに挑戦しようとする動きがある。
- Eutelsat OneWeb: 約650基の衛星が運用中だが、個人消費者への直接販売は行っておらず、Starlinkの本格的な競合とはなっていない。
- 中国のSpacesail Constellation (Qianfan/G60): 2025年末までに648基を目標とするも、現在の打ち上げ数は108基に留まっている。
- 欧州のIRIS²: 2030年までに290基のLEO衛星を打ち上げる計画だが、EU市民、企業、政府機関に限定される見込み。
これらのメガコンステレーション計画は、天文学者からの光害への懸念や、宇宙空間の混雑によるリスクなど、新たな問題も提起しており、その解決には時間がかかると予想される。
今後の展望
2026年に向けて、Amazon Leoは消費者がイーロン・マスク氏への依存から解放されるための短期的な希望として注目されている。しかし、LeoがStarlinkの本格的な競合となるまでには数年を要するだろう。
Starlink自体も進化を続けており、約5年の寿命で衛星が意図的に軌道離脱される中、2025年はSpaceXにとって記録的な打ち上げ年となった。2026年には、低遅延とギガビット速度を提供するより強力な第3世代Starlink衛星の投入が予定されているが、そのためにはStarshipロケットの運用開始が鍵となる。
競争の激化により、将来的には価格が低下し、ユーザーにとってより良い選択肢が生まれることが期待される。
元記事: https://www.theverge.com/column/837202/starlink-work-from-home
