再生可能エネルギー業界に迫る転換点:税額控除終了の波紋
2025年末に迫る連邦太陽光発電税額控除の失効により、米国の太陽光発電業界は新たな局面を迎えています。ドナルド・トランプ氏が署名した「One Big Beautiful Bill Act」の影響で、当初2035年まで延長される予定だった住宅用太陽光発電の税額控除が今年末で終了することになり、現在、顧客は税額控除の恩恵を受けようと太陽光発電設備の設置に「狂乱の駆け込み需要」を見せています。
過去の教訓:1985年の「大虐殺」との比較
カリフォルニア太陽光・蓄電協会会長のエド・マレー氏は、1985年にロナルド・レーガン大統領が税額控除を打ち切った際、業界が経験した「大虐殺」を記憶しています。当時、数百もの企業が倒産し、協会の会員数も激減しました。その後、2005年の税額控除再導入と2022年のインフレ削減法(IRA)による拡張によって業界は劇的な回復を遂げましたが、マレー氏は再び同じ過ちが繰り返されることを懸念しています。
駆け込み需要と業界が直面する課題
税額控除終了のニュースが広まるにつれて、住宅用太陽光発電システムの需要は急増しています。米国の太陽光市場EnergySageによると、共和党の歳出法案可決後、設置業者とのコミュニケーションが前年比205%増となりました。しかし、この需要の急増は、設置業者に新たな頭痛の種をもたらしています。
主な課題は以下の通りです:
- 許認可の遅延: 北カリフォルニアでは、許認可取得にかかる時間が8月から4~8週間に倍増しました。地元の許認可事務所は申請の殺到により「完全に圧倒されている」状態です。
- 顧客への経済的影響: 平均37,000ドルとされる設置費用に対し、顧客は30%の税額控除を失うことで数千ドルもの損失を被る可能性があります。Vital Energy Solutionsは、120件もの顧客が遅延により税額控除を失う危機に瀕していると警鐘を鳴らしています。
- サプライチェーンの問題: 南カリフォルニア・エジソンではメーターソケットアダプターの設置に大幅な遅延が生じ、QCellsの従業員一時解雇やRECのシンガポール工場火災など、主要設備の供給不足が深刻化しています。
- トランプ政権の関税: 関税制度がコスト上昇と調達の遅延をさらに悪化させています。
Ipsun Solarのレオ・ケシシアンCEOは、新たな販売を一時的に停止せざるを得なかったと述べています。
新たなビジネスモデルへの適応:第三者所有(TPO)の台頭
業界は、この厳しい状況を乗り越えるために変化を迫られています。多くの設置業者は、屋根工事、HVACサービス、ヒートポンプ、EV充電器の設置など、事業の多角化を検討しています。また、2028年まで利用可能な商業用税額控除があるため、商業用設置に注力する企業も増えています。
特に注目されているのが、第三者所有(TPO)モデルの台頭です。リースや電力購入契約(PPA)を通じて、顧客は設備を直接購入することなく太陽光発電を利用できるようになります。
太陽光発電大手のSunrunは、TPOモデルに対する保護を積極的に働きかけ、その結果、同社の株価は前年比75%増と好調です。このモデルは、初期投資が難しい顧客にも太陽光発電を普及させるメリットがある一方で、過去には料金のエスカレーションが問題視されることもありました。しかし、税額控除の終了を背景に、より低い料金エスカレーションやリース・トゥ・オウンモデルといった新たなTPOオプションが生まれています。
EnergySageのエミリー・ウォーカー氏は、「これらが選択肢として存在することは、一筋の光明だ」と述べています。
業界の将来展望と提言
多くの課題に直面しているものの、業界関係者は住宅用太陽光発電業界の終焉を告げる声は上げていません。電気料金の高騰(特にデータセンター近郊)や、異常気象や山火事による停電の頻発が、引き続き住宅用太陽光発電システムへの需要を牽引すると予測されています。
カリフォルニア太陽光・蓄電協会のエド・マレー氏は、1985年の経験から「貯蓄をしておくように」と助言し、中間選挙での「政権交代」によって税額控除が復活することを期待しています。「これは厳しいビジネスだ」と彼は付け加えています。
太陽光発電業界はこれまでも規制環境の変化に適応し、成長を続けてきました。今回の転換点も、業界がより強固で持続可能なビジネスモデルへと進化する機会となるでしょう。
元記事: https://www.theverge.com/science/844852/solar-energy-panel-installation-tax-credit-trump
