なぜ英国の政治家はアメリカのテック大手へと向かうのか?

元英国財務大臣ジョージ・オズボーン、OpenAIとCoinbaseの要職に就任

AI分野での人材獲得競争が激化する中、大手テック企業はエンジニアだけでなく、企業の成長を支える上級幹部の獲得にも注力しています。特に注目されるのは、元英国財務大臣であるジョージ・オズボーン氏が、OpenAIのマネージングディレクター兼カントリー責任者、そして暗号資産取引所Coinbaseの諮問委員会でより積極的な役割を担うことを発表したことです。この動きは、英国の元政治家が米国の主要テック企業に流れるという、「回転ドア」現象の拡大を示すものとして英国で大きな注目を集めています。

ジョージ・オズボーン氏のキャリア

ジョージ・オズボーン氏は、2010年から2016年まで英国の財務大臣を務めました。2016年のブレグジット国民投票後、デイヴィッド・キャメロン首相の辞任に伴い、オズボーン氏も2017年に公職を離れました。その後は投資会社BlackRockの顧問、Evening Standardの編集長を務める傍ら、弟と共にVCファーム「9yards Capital」を共同設立。同社のポートフォリオ企業にはRobinhood、Toast、Coinbaseなどが名を連ねています。

OpenAIにおける新役割:AIの「クリティカルインフラ化」を推進

オズボーン氏はX(旧Twitter)で、「OpenAI for Countries」のマネージングディレクター兼カントリー責任者としてロンドンを拠点に活動することを発表しました。このイニシアチブは、OpenAIが各国の政府と提携し、国内データセンターの構築を支援し、ChatGPTを各国の言語や文化に合わせてローカライズすることを目的としています。これは、5,000億ドル規模の「Stargateプロジェクト」の一環であり、AIを「クリティカルインフラ」と捉え、民主的なAI基盤の構築を支援するものです。オズボーン氏の広範な政治的ネットワークと経験は、AIのガバナンスと展開における重要な意思決定において、OpenAIに計り知れない価値をもたらすと期待されています。

Coinbaseにおける役割:規制対応への貢献

さらに、オズボーン氏はCoinbaseの諮問委員会で、世界中の政策立案者との連携においてより積極的な役割を果たすことになります。Coinbaseの最高政策責任者は、オズボーン氏が規制当局との関係構築に貢献すると述べています。特に、暗号資産取引所にとって規制当局との良好な関係は極めて重要であり、オズボーン氏の経験と人脈が同社の政策戦略に大きく寄与すると見られています。

拡大する「回転ドア」現象と倫理的懸念

オズボーン氏の今回の就任は、元英国副首相ニック・クレッグ氏がMetaの政策責任者を務めた例や、元首相リシ・スナク氏がMicrosoftやAI企業Anthropicの顧問に就任した例など、他の著名な英国政治家が米国のテック大手へと転身するパターンと重なります。この「回転ドア」現象は、倫理的懸念を引き起こしています。

  • 一部の批判者は、元政府高官がその経験と人脈を活かして民間部門で高額な報酬を得ることや、現役議員が外国企業の利益を擁護することに問題があると指摘しています。
  • 政府の倫理監視団体は、このような人事に対して監視を強めていますが、オズボーン氏が過去にEvening Standardの編集長に就任する際に、適切な承認を得なかった経緯も批判の対象となっています。

しかし一方で、こうした転身を「スキルと経験の活用」と肯定的に捉える見方もあります。オズボーン氏のこれまでのキャリア、特にフィンテック規制における英国をリードした実績は、彼が新たな分野で貢献できる証拠とされています。いずれにせよ、公職から高額報酬の民間職へと迅速に移行するこの傾向は、今日の倫理監視団体が注目する広範なパターンの一部となっています。


元記事: https://techcrunch.com/2025/12/18/why-british-politicians-are-flocking-to-american-tech-giants/