「木が皆既日食を予知する」説に新たな批判、科学的厳密性に疑問符

植物の神秘か、それとも疑似科学か?

昨年発表され、「木が皆既日食を予知し、生体電気活動を同期させる」という画期的な研究は、植物の知覚とコミュニケーションに関する新たな洞察として大きな注目を集めました。しかし、この主張は発表当初から他の研究者からの強い懐疑的な意見に直面しており、今回、その科学的厳密性を問う新たな批判が学術誌『Trends in Plant Science』に掲載されました。

トウヒの木と日食の「同期」

元の研究は、イタリア工科大学の物理学者アレッサンドロ・キオレリオ氏らが、サザンクロス大学の植物生態学者モニカ・ガリアーノ氏らと協力し、イタリアのドロミーティ山脈にあるトウヒの木を対象に行われました。彼らは、樹齢20年から70年のトウヒの木3本と切り株5本に電極を取り付け、2022年10月22日の部分日食中の生体電気活動を測定しました。その結果、日食中に生体電気活動が著しく増加し、日食の最中にピークを迎え、その後は減少したと報告されています。

キオレリオ氏らはこの活動の急増を、日食によってもたらされる暗闇に対する木々の協調的な反応と解釈しました。さらに、樹齢の古い木ほど生体電気活動が早く、強くピークに達したことから、これは木が反応メカニズムを発達させている、一種の記憶を示唆するものではないかと示唆しました。彼らはまた、古い木が電気信号を通じて若い木にこの「知識」を伝達している可能性も示唆していました。

懐疑論者の反論:温度変化や落雷が原因か?

この画期的な主張に対し、他の植物科学者たちは強い懐疑的な見方を示しました。批判の主な焦点は、研究のサンプルサイズの小ささ多数の変数にありました。

イスラエルのベン=グリオン大学の進化生態学者アリエル・ノヴォプラナスキー氏は、今回の批判論文の共著者の一人です。彼は、生体電気活動の急増は日食のわずかな影響ではなく、温度変化や落雷といった環境要因によるものである可能性が高いと指摘します。ノヴォプラナスキー氏によると、日食による日照量の減少はわずか10.5%に過ぎず、これは通常の雲による日照量の変動よりも小さいとのことです。また、「古い木が日食の知識を若い木に伝える」という考え方についても、各日食の経路は独自のものであり、過去の経験が将来の日食の予知に繋がるとは考えにくいと反論しています。

ノヴォプラナスキー氏は、この研究を「生物学的研究の中心への疑似科学の侵入」であるとまで厳しく非難しています。アルバータ大学の植物生態学者ジェームズ・ケイヒル氏もこの批判に同調し、この分野には「杜撰な研究デザイン」「個人的な世界観を助長する物語への歪曲」が蔓延していると述べています。

研究者側の擁護:あくまで予備的な報告

一方、キオレリオ氏とガリアーノ氏は、彼らの研究結果を擁護しつつも、その予備的な性質であることを常に認めてきたと反論しています。彼らは、研究中に測定された気温、相対湿度、降水量、日射量などの気象要素と、日食中の生体電気活動の過渡的な変化との間に強い相関関係は見られなかったと説明しました。しかし、環境中の電場は測定しておらず、落雷の影響は完全に排除できないとも付け加えています。

ガリアーノ氏は、彼らの論文は日食期間中の経験的な電気生理学的/同期パターンを報告したものであり、候補となる「手がかり」は実証された原因ではなく、あくまで仮説として議論されたものであると強調。限られたサンプルサイズを認めつつ、追跡調査が進行中であり、その結果は査読付きの学術誌を通じて公表される予定だと述べました。また、「疑似科学」といったレッテル貼りには関与せず、科学的な意見の相違は透明性のあるデータと識別可能なテストによって解決されるべきだと主張しました。

科学的探求における厳密性の重要性

今回の議論は、植物の知覚やコミュニケーションといった、まだ多くの謎に包まれた分野において、いかに科学的厳密性が重要であるかを浮き彫りにしています。革新的な仮説は重要ですが、それを裏付けるには、透明性のあるデータと検証可能な仮説に基づいた厳格な実験と分析が不可欠です。今後の追跡調査や、より多角的な視点からの研究が、この興味深い分野の理解を深める鍵となるでしょう。


元記事: https://arstechnica.com/science/2026/02/new-critique-debunks-claim-that-trees-can-sense-a-solar-eclipse/