序論:高騰する評価額と政府介入への警鐘
セコイア・キャピタルのグローバル・スチュワードであるローロフ・ボータ氏は、TechCrunch Disruptでの講演で、高騰する企業評価額を追い求める創業者たちに警鐘を鳴らし、同社の厳選された投資アプローチを強調しました。特に注目されたのは、トランプ政権が米国企業への直接的な株式取得を開始したことに対する彼の見解です。ボータ氏は、「世界で最も危険な言葉の一つは、『私は政府の者で、助けに来ました』だ」と述べ、会場の笑いを誘いました。
産業政策と国家安全保障の課題
ボータ氏は自身を「リバタリアンで自由市場主義者」と称しながらも、国家の利益が求められる場合には産業政策の必要性を認めました。彼は、米国がこのような手段に訴える唯一の理由は、長期的な国益に反する可能性のある戦略的産業を育成するために産業政策を利用している他国(中国など)との競争にあると指摘。これは、経済的な国家安全保障の観点から、政府の市場介入が避けられない状況を示唆しています。
市場の過熱と「イカロス」の警告
ボータ氏は、現在の市場を「信じられないほどの加速期にある」と表現し、パンデミック期の資金調達の熱狂が再燃していることに懸念を示しました。彼は、2021年に12ヶ月で1億5000万ドルから60億ドルに急騰した企業評価額が、その後急落した事例を挙げ、市場の過熱がもたらすリスクを強調。創業者に対し、ラテン語で学んだ「イカロス」の物語を引用し、「あまりにも高く、あまりにも速く飛べば、翼が溶けてしまうかもしれない」と警告しました。これは、急激な評価額の上昇がチームの士気を低下させ、企業の持続可能性を脅かす可能性があることを示唆しています。
創業者への助言:資金調達のタイミング
このような不安定な市場環境において、ボータ氏は創業者に二つの助言を与えました。一つは、もし今後12ヶ月間資金調達の必要がないのであれば、今は調達しないこと。もう一つは、もし6ヶ月以内に資金が必要になる見込みがあるなら、資金が潤沢な今のうちに調達することです。これは、市場の変動性を考慮した戦略的な資金調達の重要性を説いています。
セコイアの厳選された投資哲学
セコイアは、新たに9億5000万ドルのシードおよびベンチャーファンドを立ち上げ、引き続き初期段階の企業への投資に注力しています。ボータ氏は、セコイアの投資哲学を「爬虫類よりも哺乳類に近い」と表現。つまり、多数の卵を産んで放置するのではなく、少数の「子孫」に多くの注意を払い、育成するというものです。また、同社の投資決定は、パートナーシップの合意を必須とし、全員の投票が平等に扱われるという厳格なプロセスを経て行われることを明かしました。これは、同社がリスクを慎重に評価し、長期的な成功を目指す姿勢の表れです。
ベンチャーキャピタル業界への提言
ボータ氏は、ベンチャーキャピタルが真の資産クラスではないという挑発的な見解も示しました。彼は、上位20社程度のVCを除けば、業界全体としてはインデックスファンドへの投資を下回るパフォーマンスであると指摘。現在、米国だけで3,000社ものVCが存在することに触れ、「シリコンバレーに多くの資金を投入しても、より多くの素晴らしい企業が生まれるわけではない。むしろ、それが希薄化を招く」と述べ、業界の集中と厳選の重要性を訴えました。
